【特別企画】
生活と音楽の関係。マランツMODEL 30シリーズのデザインを、インテリアコーディネーターと考える
■オーディオ機器とは「どこでもドア」である
大橋:私のようなオーディオファイルにとっての“良いデザイン”というのは、回路技術やメカニズムなど、高音質のための技術が表皮をまとっているもの。ブランドの思想や世界を体現したデザインに惹かれるんです。つまり“マランツらしさ”のあるものがグッド・デザインと感じるわけです。でも一般の方は、生活のなかにさりげなく溶け込む、整理された引き算の美学というものが良いデザインであると思う方が多いと思います。
どちらかが正しいというわけではなく、第三の道がこれからは問われていると思われます。
その鍵はやはり、音楽の聴き方の変化です。オーディオファイルはまだCDやレコードを買いますが、大多数はもう買いません。これまでは室内にCDライブラリーがあってジャケットやスリーブを眺めてトレイにセットする行為がありましたが、そうしたヒューマンなマニュアルの手順や儀式が消えようとしています。
しかし、音楽の豊かで深い世界へ入っていくために、生活の決まった場所にいつも扉があることが必要なのです。そこには対話する楽しさがあったはずです。
私たちは17世紀から21世紀までの世界各国の音楽を聴きます。オーディオは「タイムマシン」であり「どこでもドア」です。夢とロマンのある存在であってほしいのです。
鈴木:これほど簡単に音楽が手に入るようになると、良い音で聴くというのはひとつの贅沢になると思います。その贅沢を担う部分が、マランツブランドの提供する製品だと考えています。
大橋:オーディオの出発点のひとつは自作であり放送機器録音機器です。マランツの創業者であるソウル・バーナード・マランツ氏は、音楽愛好家でアンプ設計者でした。一方職業がデザイナーだった。だから、音の優れた機器を自分の手で生み出そうとした。機器に、所有する喜びを持たせたいと思ったのです。そうしてパワーアンプとして初めて、真ん中に丸窓のある“顔”を得た真空管パワーアンプ「Model 9」(1960年)や、木枠に囲まれつまみの位置が美しく、多くのメーカーに影響を与えたコントロールアンプ「Model 7」(1958年)などの独創的で質感の高い、美しいデザインが誕生しました。
多くの方にとって音楽は、スマホでサブスクで聴く、コストパフォーマンス重視の世界になってきています。それに抗うものとして、オーディオ機器は持つ喜びを与えてくれるものであって欲しい。そのためには没個性であってはいけないし、感覚的な美しさが必要です。マランツという、オーディオの文化をつくってきたメーカーの伝統や価値を所有するということ。これは新しいメーカーには決してできないことなんですよね。長年ずっと価値を持ってきたアイコンを使いこなせるというのは、マランツならではだと思います。
鈴木:MODEL 30シリーズを所有していただいて、製品から出る音そのものが贅沢だと思っていただけると嬉しいです。
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