秋のヘッドフォン祭2009レポート

ドイツ“第3のハイエンドヘッドホン”登場 − beyerdynamicのフラグシップ機「T1」発表会が開催

公開日 2009/10/31 16:49 Phile-web編集部
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本日、中野サンプラザでフジヤエービック主催「秋のヘッドフォン祭 2009」が開催された。ティアック(株)は同会場で、昨日発表した独beyerdynamic(ベイヤーダイナミック)社のフラグシップヘッドホン「T1」とヘッドホンアンプ「A1」の発表会を開催した。

beyerdynamicの新フラグシップヘッドホン「T1」

ヘッドホンアンプ「A1」

「T1」はオープン価格だが14万円前後での販売が予想され、beyerdynamicのこれまでの最高級機「DT990」の価格を大きく上回るフラグシップモデル。ドイツメーカーのヘッドホンでは今年、ゼンハイザー「HD800」とウルトラゾーン「edition 8」が立て続けに発売されたが、T1もほぼ同じ価格帯に位置する。ドイツのハイエンドヘッドホン3機種が、いよいよ出揃った恰好だ。

ヘッドバンドはリアルレザーを使用している

ヘッドバンド部は板バネを使用しているため写真のように捻ることもできる

beyerdynamic社は1924年、Eugen Beyer氏によってドイツに設立された老舗メーカー。本社はHeilbronnにあり、従業員数は約300名。このうち約200名は開発や製造に従事しているという。同社が主力としている業務は、カンファレンスソリューション、ステージパフォーマンス、スタジオアプリケーションなどの業務用機器と、一般向けのヘッドホンの4つ。1937年に世界初のダイナミックヘッドホン「DT 48」を発売し、このモデルは現在も販売を継続するなど、数々の名機をこれまで市場に投入してきた。また業務用機器はビートルズが初めて行ったツアーで同社の機器が使用されたほか、2002年、2006年のワールドカップ、2008年の北京オリンピックでも同社製品が採用されたのだという。

beyerdynamic社は1924年に設立された

近年のヘッドホンでは、2005年にユーザーが様々なカスタマイズを行えるヘッドホン「MANUFAKTUR」を発表。さらに2007年には、今回国内で導入されるヘッドホンアンプ「A1」を発売した。

発表会では「T1」の詳細について、ドイツの本社でコンシューマプロダクトビジネスユニットのマネージャーを務めるグンター・ワイドマン氏が説明した。

コンシューマプロダクトビジネスユニットのマネージャーのグンター・ワイドマン氏

T1はセミオープンタイプのダイナミック型ヘッドホンで、ドイツ国内でオールハンドメードで作られる。

T1の最大の特徴は、「開発に数年を要した」(ワイドマン氏)というドライバーユニットにある。本機は、もともとハイエンドヘッドホンを作ろうとして企画されたものではなく、1テスラ(10,000ガウス)という非常に高い磁束密度を持つマグネットを開発しようという計画が先に進み、結果的にこのマグネットを搭載した最初のモデルがT1になったのだという。ワイドマン氏は「HD800やedition 8と同じ時期になったのは単なる偶然だ」と説明した。

ご存じの方も多いだろうが、テスラという単位は、交流電流技術で名高いクロアチア出身の科学者、ニコラ・テスラにちなんでいる。また、本機のモデル名の「T」は「Tesra」を、「1」は1テスラを初めて達成したモデル、という意味を表している。

テスラという単位は、交流電流で知られるニコラ・テスラにちなんでいる

本機のドライバーユニット。リング状に「テスラマグネット」を配置している

なお、ドライバーは非常にシンプルな構造になっており、部品点数も少ない。その分、部品と部品の間の隙間が縮める必要があり、製造にはより緻密さが要求されるのだという。

ドライバーユニットの構造

beyerdynamicが1テスラという高い磁束密度にこだわったのは、エアギャップで強力な磁力を確保して能率を高めることが音質向上に有効と考えたため。同社のプレミアムラインであるDT770/880/990などと比べて2倍以上の磁束密度となったことから、出力音圧レベルも102dB(1mW/500Hz)と大幅に高まった。なお、マグネットはリング状に配置されており、磁束はエアギャップに集中させる構造となっていることから、磁束の漏洩は通常のヘッドホンと同等レベルで、健康への悪影響はないという。

ダイアフラムも新素材を採用し、「サンドイッチレイヤーダイアフラム」というものを使用している。さらにバッフルには通常使われるフェルト紙ではなく、不織布が用いられている。また、ドライバーのハウジングなどは金属が使用され、シールドにも配慮した。なお、バッフルとドライバーはオフセットしてマウントされている。これはドライバーを耳となるべく並行に配置し、音質を高めるための工夫だ。

バッフルとドライバーはオフセットしてマウントされている

ダイアフラムは新素材。またバッフルには不織布を用いている

ケーブルは左右両出しタイプで、左右のケーブルそれぞれに2本ずつの信号線とシールド線を採用。この構造により、XLRコネクターに付け替えるだけで、バランスタイプのヘッドホンアンプで駆動することが可能となっている。なおプラグはステレオ6.3mm標準タイプで、ノイトリック製の金蒸着プラグを使用している。

本機は600Ωとハイインピーダンスなことも特徴の一つ。インピーダンスを高めるとボイスコイルの捲き線を細くすることができ、軽量化が実現できる。その分反応が良くなり、インパルスなどへの追従性が高まることから、このインピーダンス設定にしたのだという。ただし、駆動には駆動力のあるヘッドホンアンプが必要になることから、将来的には32Ωのモデルを発売する可能性も十分にあるという。

デザインについては、「最新の技術をオーセンティックなスタイルに搭載したのがこだわり」と説明。また「素材はすべて“本物”であることにこだわった」とのことで、ヘッドバンド部はレザーを使用し、板バネを用いているため捻ることもできる。またイヤカップ部はステンレスを、イヤーパッド部はベロアを使用した。さらにイヤーカップ部のメッシュ部分の質感にもこだわったという。なお、本機には大型のアルミ製収納ボックスも付属し、高級機であることを演出している。

すべて本物の素材を使用したことがデザイン面での大きなこだわりだ

イヤーカップのメッシュ部の質感にもこだわっている


アルミケースに本体を収納したところ

頑丈な造りのアルミケースが付属する

beyerdynamicの今後の販売戦略については、アジアパシフィックのエリアセールスマネージャーであるボブ・ピレイ氏が説明。アジア地域では、特に18歳から30歳程度までの若者を注力すべきターゲットと捉え、販売チャネルの開拓やコミュニケーション活動を行っていくという。

アジアパシフィックのエリアセールスマネージャー、ボブ・ピレイ氏

中でも女性層の獲得を図るため、新たな商品展開を行う計画も明らかにした。ピレイ氏は、「おそらくオーディオに興味のある方には、beyerdyamicはハイエンド、プレミアムというイメージを持たれていると思う。本日発表したT1のように、これはもちろん重要だが、ここで培ったものをローエンドにも派生させていきたい」と説明。また、ドイツで企画・開発した商品をそのまま海外で展開するのではなく、現地のニーズを汲み上げた製品を投入する必要性も強調した。

そのほか、ティアックブースには同社取り扱いのヘッドホンが多数展示された。左はbeyerdynamicの「DT 990 」

beyerdynamicのカナル型イヤホン


KOSS「PORTAPRO」の25周年モデルも展示

KOSSの最新イヤホンも展示されている

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