D&Mグループのエレクトロニクス技術も投入
「ひとの声」を重視したサウンドバーを届けたい。グローバルな知恵と技術を結集するPolk Audioの音質追求
スピーカーとサウンドバーを展開するアメリカのブランド
アメリカのスピーカーブランドとして、日本でも急激に人気を高めているPolk Audio(ポーク・オーディオ)。今年で創業51年を迎える老舗ブランドである。主にパッシブスピーカーとサウンドバーを開発しているが、今回サウンドバーに込められた技術を説明するプレスカンファレンスが開催された。
改めておさらいしておくと、Polk Audioはアメリカのボルチモアで設立されたスピーカーブランド。当初から「学生でも購入できる価格の製品を作る」というポリシーで製品開発をおこなっており、ここ日本にも2020年に本格的に“再上陸”、スピーカー分野で一気にシェアを拡大している。
Polk Audioはサウンドバー製品にも力を入れており、国内でも価格の上から順に「SIGNA S4」「SIGNA S3」「REACT」の3モデルを展開する。そして同社の製品にはデノン、マランツブランドを擁するディーアンドエムホールディングス(以下D&M)のエレクトロニクス技術が多く投入されている。その詳細を詳しく教えてもらった。
「SIGNA S4」は現在導入されている中でのトップモデルでドルビーアトモス対応のサブウーファー別体モデル、「SIGNA S3」はアトモスは非対応だがサブウーファー別体モデル、「REACT」は一体型バーという違いがある。国内には導入されていないが、他にも上位グレードとなる「MAGFINI」シリーズなども用意されている。
テレビの大型化・薄型化が進む一方で、構造上どうしても音質面が犠牲にされることが少なくない。またコロナ禍による自宅エンタメをより上質なものに、という需要も高まっており、テレビの下に設置できるサウンドバーへの関心は高い。
だが、サウンドバーは横に長いスペースの中に、複数のスピーカーユニットとアンプ、DSP等を詰め込まないといけないため、音質設計が非常に難しいプロダクトでもある。Polk Audioが長年培ったスピーカー開発の技術に、D&Mのエレクトロニクスが加わることで、さらなるジャンプアップが期待できるのではないか、ということで技術協力がスタートしていたのだという。
この背景もざっと振り返っておくと、2017年にD&Mはアメリカの大手サプライヤー「Sound United」グループに買収された。Sound UnitedはPolk Audioのほか、Definitive Technologyなどいくつかのブランドを擁しており、先進的なオーディオ技術を持つブランドを多く傘下に収めることで、ブランド間のシナジーを加速しオーディオ市場への存在感を高めたい、という意図があるようだ。(なお、2022年にはアメリカの医療系企業MasimoにSound United自体が買収されているが、少なくとも各ブランドの展開については大きな変更はないと聞いている)
Polk Audioの音質設計にも関わっているグローバル プロダクト ディベロップメント プロダクト平木慎一郎氏によると、2社の技術協力は3-4年ほど前から始まっていたという。「POLK AUDIOの開発スタッフはみなプロフェッショナルで、特にスピーカーについてはその要点を捉えて、どの部分が音に響いてくるのか、どこが商品力に繋がっているのかを深く理解した上で製品開発を行っているように感じます」と信頼を寄せる。
「ひとの声」を重視する一貫したサウンドポリシー
Polk Audioのサウンドバーの開発ポリシーは2つある。それは「誰もが買える価格であること」、そして「ひとの声を大切にしたパワフルで心地よいサウンド」というもの。いずれもパッシブスピーカーの理念と共通しており、音楽ならばボーカル、映画ならばセリフといった人の声を重視したチューニングを行なっているという。
サウンドバーのスピーカーユニットは、主にボルチモア州オーイングミルにある研究所ARADにて研究開発がなされている。
一番安いクラスである「REACT」のこだわりは、新開発のフルレンジ・ユニット。これまでのプレス発表等では「トゥイーター」と説明されていたものだが、詳しく話を聞くとこちらは400Hz〜20kHzと幅広い帯域を受け持つフルレンジ的な活用がなされているものだという。振動板はアルミ、ネオジムマグネットと贅沢な素材が採用されている。
バーの中央から1/4あたりの場所に、2基のフルレンジユニットを左右対称に搭載、左右端にウーファーユニットを上向きに2基搭載。自然なステレオイメージを意図した配置のようにも見うけられる。低域の強化にはパッシブラジエーターを搭載。この構成では人の声の帯域にクロスオーバーがかからないため、「自然さ」や「聴き疲れのなさ」に繋がっていると説明する。
パッシブラジエーターについては、Polk Audioの往年のモデル「Monitor7」「Monitor10」にも搭載されており、そのメリットとデメリットを理解した上で「REACT」にも活用されているという。たとえばウーファーとパッシブラジエーターを同一天面上に配置すること、筐体の内側に六角形のリブを入れて強度を高めること、また吸音材の位置や種類なども検討を重ねて音質を追い込んでいる。
「SIGNA S4」では本物のアトモス再生を追求
フルレンジスピーカーは、上位グレードの「SIGNA S4」のセンタースピーカーとしても活用されている。こちらは本体が3.1.2ch構成に別筐体のサブウーファーが付属するモデルで、ドルビーアトモス再生にも対応する。左右にはオーバル型のミッドレンジとトゥイーターを2基ずつ、それにイネーブルとして斜め上向きに配置されたフルレンジスピーカーも搭載される。
「バーチャルではなく、本当のアトモス再生を届けたい」というテーマで開発が進められ、上方向のイネーブルドスピーカーにも大型のフルレンジを搭載。能率を高めるために軽量エッジやウレタンを使って薄型化を実現した。
センタースピーカーは先述の通り「REACT」に搭載されるものと同一だが、やはり映画におけるセリフをきちんと聴き取りやすいものを、という意図で搭載されたのだという。
SIGNA S4用のアンプ回路は正面から見て中央右に、電源回路は中央左に配置されており、奥行きや高さの取れないなかでの工夫が感じられる。独特な逆J字型のヒートシンクもそのこだわりの一つということで、効率的に熱を逃すよう設計されている。
もうひとつPolk Audioのサウンドバーの特徴的な技術が、人の声を聴き取りやすくする「voice adjustment」という機能。これはコンテンツに含まれる人の声の成分を解析し、そこだけ明瞭に再生されるようにする仕組みで、リモコンで強中弱を選択できるようになっている(デフォルトはOFF)。たとえばスポーツ中継の盛り上がりの中でも解説の声が聴き取りやすかったり、ライブ音源でもヴォーカルがはっきり耳に届くように、という意図で搭載されている機能となる。
制約のある環境下でも、音質への追求にこだわる
試聴室にて映像ならびに音楽コンテンツについてデモを体験した。特に印象的だったのは「SIGNA S4」のドルビーアトモスの効果。サウンドバーではなかなか回り込みの表現が難しい場合もあるが、たとえば『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の水中のシーンでは、揺れる水草や仲間たちのしなやかな動きが上下左右方向にしっかり展開されて、まるで一緒に水の中を泳ぎわたっているような気分にさせてくれる。
『不屈の男 アンブロークン』は開発チームが音決めに使っているコンテンツのひとつだという。冒頭の戦闘機に乗り込むシーンでは、バリバリとした騒がしいサウンドの迫力はそのままに、セリフがきちんと聴き取れる。『ブレードランナー2049』では、都市の猥雑な環境や、Kの乗ったビークルが飛び去るさまも、しっかりとした再現力で描写してくれる。
Polk Audioの現行ラインナップでは、Amazon Alexaのボイスコントロール機能や、スマートフォンからAmazon musicやSpotifyなどをキャストするといったネットワーク機能も搭載されている。しかし、D&Mがエレクトロニクスに関する技術提供を行っているならば、たとえば今後「HEOS対応モデル」といった製品も期待できるかもしれない。
リビングオーディオというジャンルが成長する中で、サウンドバーは日常に豊かな音楽体験をもたらす製品としてまだまだ大きな可能性を秘めている。制約のある環境下でもいかに音質を追求するか、というこだわりにおいてグローバルな技術と知恵を結集していることに、Polk Audioの真摯な姿勢を感じることができた。
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