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リムーバブルHDD「iVDR」はAVメディアの主流になれるか

公開日 2006/12/20 20:15
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既報の通り、iVDRは昨日、「iVDR is now taking off」と題したセミナーを開催し、規格の最新動向を説明するとともに、対応機器の発売も正式に表明した。

iVDRは、家庭用AV機器だけでなく、カーナビやPCなどにも応用が期待されている規格だが、ここでは話題をAV関連分野に絞る。iVDRがAV機器に採用された場合、我々がどのようなメリットを享受できるか、そしてAV用メディアとして見たときのポテンシャルはどの程度か、ということについて検証してみたい。

●iVDR規格とは何か

まずは、iVDR規格の概要をおさらいしてみよう。iVDRは、2.5インチと1.8インチのHDDを、専用のカートリッジに格納した、リムーバブル型のHDDメディアだ。2.5インチメディアを「iVDR」、1.8インチメディアを「iVDR Mini」と呼ぶ。横幅はどちらも同じ80mmなので、iVDR/iVDR Miniの両方に対応したドライブを作ることもできる。

日立マクセルが試作したiVDRメディア

現在のところカートリッジのサイズは2つ

また、現在は暫定規格だが、横幅を50mmとさらに小型化した「iVDR Micro」という規格も存在する。これは、市場動向を見ながら本規格の策定が行われる予定だ。

iVDRの中身はHDDだから、光ディスクやフラッシュメモリーに比べ、現在のところ記録容量の面で優位性を持っている。この大容量を活かすコンテンツとして真っ先に思い浮かぶのは映像、中でもハイビジョンコンテンツだが、ただHDDをケースに収めただけでは、デジタル放送が求める著作権保護をクリアすることができない。

●iVDR-Secureの登場でデジタル放送が扱えるように

この問題を解決するため、iVDRとは別組織の「SAFIA」ライセンスグループが、iVDR用の著作権保護技術を開発。この技術を搭載したiVDRを「iVDR-Secure」として展開することになった。このiVDR-Secureは、今年ARIBから認可を受け、家庭用AV機器に同メディアを採用することが可能になった。

このほか、レコーダーの中などに組み込むことを想定した「iVDR-Secure Built-in」規格というものもある。通常のシリアルATAのHDDにiVDRのセキュリティ機能を持たせたもので、たとえばレコーダーのHDDに同規格を採用しておくと、レコーダーを買い換える際、コンテンツを録りためたHDDを、新しいレコーダーに移し替えることが可能になる。

ここまでがiVDRの概要だが、ここからは、iVDRを実際にAV機器に採用した場合をシミュレーションしてみよう。

●HDDとリムーバブルメディアの長所を兼ね備える

リムーバブルメディアの使い勝手の良さと、HDDの長所とを兼ね備えているのがiVDRの魅力だ。

HDDがリムーバブルメディアになったら何が起きるのか。現在、レコーダーやHDD内蔵薄型テレビは、主にHDDの容量の大きさを変え、製品ラインナップを構築している。これらの機器にiVDRスロットが装備されたら、容量を自由に増強することが可能になり、ユーザーの利便性が大きく向上する。

また、iVDRは取り外しが可能なので、録画したコンテンツを外に持ち出すことができる。メディアを持ち出して車載用AV機器で再生したり、知人の家で再生したりと、これまでのHDDでは不可能だったことができるようになる。


写真のように、家族間でライブラリーを管理することも可能
iVDRはライブラリー管理も可能にする。たとえば家族で1枚ずつiVDRメディアを持って録画コンテンツを管理したり、ドラマやスポーツ等、番組のジャンルごとにメディアを整理することもできる。iVDRではないが、このような考え方をレコーダーに反映させた製品としては、eSATA接続の増設HDDを使って、HDD容量を増やすことが可能なパイオニアの「DVR-DT95」などがある。iVDRでは、本機のこのようなソリューションを、さらに洗練したかたちで実現できることになる。

後で詳しく紹介するが、HDDは現在のところ、光ディスクに比べて圧倒的にデータ転送レートが速い。このため、内蔵HDDとiVDR間で、超高速にダビングやムーブが行える。これもHDDならではの魅力と言えるだろう。


日立製作所がセミナーに出品したiVDR対応薄型テレビ
昨日のセミナーでは、日立製作所が2007年夏に発売を予定している、iVDR対応薄型テレビの試作機が公開された。既に内蔵HDDとiVDR間のダビング/ムーブも可能となっており、高い完成度を見せていた。

このように多くの魅力を備えたiVDRだが、それではメディアとして、その能力に死角はないのだろうか。リムーバブルメディアの代表格である光ディスク、そして急速に台頭しつつあるフラッシュメモリーとの比較を通して、メディアとしてのポテンシャルを探ってみよう。

●容量、データ転送レートでBD/HD DVDに対してアドバンテージを持つ

iVDRの長所は数多いが、まず、光ディスクメディアと比較した場合、記録容量が大きいことが挙げられる。たとえば、Blu-rayディスクでは、2層メディアでも片面50GB程度の容量しかない。HD DVDでは同30GBである。それに対し、iVDRでは、日立マクセルが160GB/80GBのメディアを発売する計画で、両メディアを大きく上回っている。地上デジタルのハイビジョン番組の録画時間では、50GBの2層BDディスクで約6時間、160GBのiVDRで約20時間録れる計算となり、iVDRに分がある。


iVDRと他メディアとの特性比較表(日立マクセルが作成したもの)
HDDのメリットとしてよく挙げられる、データ転送レートについてはどうだろう。現行BDの転送レートは4〜9MB/s。それに対してiVDRは150MB/sで、現時点では圧倒的な差がある。この転送レートが威力を発揮するのはダビングやムーブで、内蔵HDDからiVDRへのダビングスピードは、BDディスクへのスピードを大きく凌駕する。これまで、スピードが遅いことを理由にダビングやムーブをためらっていた方も、iVDRなら手軽にコンテンツを外に持ち出すことが可能になるだろう。

日常的に使用するリムーバブルメディアは、コストも大きなポイントになる。2006年12月現在、50GBのBD-REは6,000円前後で売られており、それに対してiVDR-Secureメディアはまだ発売されていないが、160GBの場合、20,000円前後で販売されるのではないかと予想される。容量あたりの単価で比較した場合、現段階ではほぼ互角と言える。

ただし、記録容量について言うと、BD/HD DVDは今後、さらなる多層化を行う計画もある。TDKは6層200GBを実現したBD-Rを今年のCEATECに出展した。これらの多層化技術が実用化されるのはまだ先のことだろうし、iVDRもその容量を徐々に増やしていくだろうが、将来的に、記録容量面でiVDRが絶対的な優位性を保てなくなる可能性がある。

また転送レートでも、BDが将来的に120MB/sまで転送レートを拡張するという計画もあり、この面での優位性も、数年間の時限的なものにとどまる可能性がある。

さらに価格面では、DVDディスクが驚くべきスピードで販売価格を下げたように、BD/HD DVDも、普及に合わせてその価格を大幅に下げていくだろう。様々な部品が集積しているHDDとは異なり、光ディスクは非常にシンプルな構造なので、コストダウンの面では圧倒的に有利となる。

記録メディアの重要なポイントである、保存寿命や耐衝撃性、耐環境性は、もともと光ディスクやフラッシュメモリーが強みを発揮する分野だ。耐衝撃性については、iVDRも1500G〜2000Gまで耐えられるよう研究をしているというが、それでも光ディスクを凌駕することは不可能と考えられる。保存寿命についても、HDDは壊れやすいとの定説があり(これについてiVDRコンソーシアムでは異論があるようだが)、少々不利と言えそうだ。

また、サイズや消費電力などについても、iVDRは光ディスクやHDDを超えることはできない。特にサイズではフラッシュメモリーが圧倒的に有利で、松下電器が32GBまでのSDHCカードを開発するロードマップを公開しているように、最近では容量の面でも拡大路線をひた走っている。1インチのiVDR-Secureが暫定規格にとどまっているのも、このフラッシュメモリーの台頭が背景にあるはずだ。

ただし、iVDRとBD/HD DVDを、単純にライバル関係として片づけることができないことも付け加えておく必要がある。双方の特性に応じ、場合によって使い分けることも考えられるし、特に組込型のiVDR-Secureなどは、その相互補完関係が機能しそうな分野だ。

●2007年の製品展開が今後の普及のカギを握る

ここまで見てきたように、iVDRが光ディスクに対し、性能面で確実に優位を保つことができるのは、今後数年間ということになりそうだ。この間に、いかに数多くの魅力的な製品を出し、市場の理解を得られるかが、iVDRにとっての正念場になる。普及を拡大させながらメディア単価を下げ、同時に車載用機器やPCなどとの連携を加速させ、デファクトスタンダードの座を狙う、というシナリオを、iVDR参加メーカーは思い描いているに違いない。そのシナリオが現実のものになるかは、来年に登場するiVDR対応薄型テレビ、レコーダー、PCなどiVDR対応機器の成否にかかっている。

また当然の事ながら、製品展開では、より多くのメーカーから製品が登場することが望ましい。現在iVDRコンソーシアムに参加しているのは53社だが、そのうちボードメンバーになっているキヤノン、日立、富士通、パイオニア、サンヨー、シャープ、ビクターなどから、早い段階で製品が登場することを期待したい。さらに言えば、まだメンバーに加盟していない大手メーカー、海外メーカーの動向も、規格の大きなカギを握っているはずだ。今後の展開を注視していきたい。

(Phile-web編集部)

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