「我々こそが消費者重視」 − 権利者団体が「ダビング10」容認の背景を説明
本日、デジタル私的録画問題に関する権利者会議、またその賛同団体が立ち上げた「CULTURE FIRST」が、私的録音録画補償金に関する記者会見を行った。
記者会見には、実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏と、日本音楽著作権協会の菅原瑞夫氏が出席。まず椎名氏が、JEITAへの公開質問状など、これまでの権利者団体の主張とJEITAの主張を、時系列を追って説明。特に、6月16日に行った公開質問(PDF)の内容については、補償金に対するJEITAの「私的複製が際限なく行われることで権利者に重大な経済的損失が生じる場合に、それを補償するとするものである」という見解について、「『際限なく』複製が行われる状態はそもそも違法であり、法律の解釈が誤っている」などと、時間をかけて説明した。
椎名氏は「JEITAへ14項目の質問を行ったが、JEITAは文化庁の審議会において、これまでまともな回答をしていない。話し合いをはじめた2年前の状況に戻ってしまったような印象を受けるが、今後も質問の山を重ねていこうと思う」とし、「JEITAは、こういう質問に答えず、自分の主張ばかりを繰り言のように繰り返し、あげくのはてに役所を使って圧力をかけてくる」と強く非難した。
両者の関係については、「意見が対立しているという状況ではなく、JEITAが質問に答えないと言うことは、当事者としての権利を失っている。それにもかかわらず、私的録音録画補償金に関する見解で『議論に主体的に参画して参りたい』など書くとは問答無用だ」と述べた。
続いて椎名氏は、ダビング10の実施容認に至った経緯についても説明。詳細はこちらでレポートしたとおりだが、その後、メーカーのバージョンアップの足並みが揃っていないという旨の報道を紹介し、「ダビング10開始が遅れた原因がメーカー側にあったという一部報道があったが、いまになって嫌にリアリティーを増しているなあ、という印象だ」とし、「急に決まったのでメーカーさんはびっくりしてしまったようで、なぜもっと早くキャッチできなかったのかという役所の声も聞こえてきている」と述べた。
ダビング10の実施を容認したことについては、「なぜ譲歩してしまったのか、権利者は重要なコマを失ったのではないか、という指摘もあった」としながら、「我々としては、これだけ常軌を逸した相手と突っ張り続けても、生産的な状態にならないと判断した。状況を変えられるのは権利者側の方だったし、我々の方で逆を行ったということ。メーカー側のいう「消費者重視」と、我々の「消費者重視」をよく見比べてもらいたい」と語った。
椎名氏は最後に、「ダビング10をめぐる正否がゴールではなく、長い目で見た上での選択を行った。クリエイターに対する適正な対価の支払いに関する問題は、今後も文化審議会で仕切り直しの議論を進めていきたい」と述べた。
続いて、菅原氏が補足的な説明を行った。菅原氏は冒頭、「ダビング10の議論の大本に戻って欲しい」と主張。コピーワンスという仕組みの採用には我々は関わっていなかった。コピーワンスの導入当初、データが消えるなどの不具合が多く、これを解消するために議論を重ね、決まったのがダビング10だ」と指摘。
また、私的録音録画補償金制度の成り立ちについても改めて説明。1992年にスタートした当初は、メーカー、クリエイター、ユーザーのバランスを配慮した制度だったが、現状、制度の対象となっていない機器が増えたことにより、補償金そのものが少なくなっていると指摘。
「JEITAの主張は、DRMによってコピーが管理されるのだから、メーカーが補償金支払いの協力義務を負う必要がなくなり、結局ユーザーが対価を支払うことになる。誰が得をするのかを考えてみると、クリエイターは私的録音録画補償金の補償がなくなれば、『特別な場合について、通常の利用を妨げず、著作者の利益を不当に害さない』という考え方との齟齬が起きる。ユーザーについては、DRMによる課金や管理が行われることで、その人の好みがデータとして集約され、プライバシーへの介入などの問題も将来的に出てくる。また、私的録音録画の許容範囲が縮小されることも考えられる」と、クリエイターやユーザーが不利益を被ると主張した。
一方のメーカーについては、「協力義務から解放され、私的録音録画用機器や記録媒体の販売による一方的な利益を享受するようになるが、しかしこういうことを続けていては、我が国の多様な文化をはぐくむ環境や創造のサイクルが破壊されてしまう。こういうものは、一度破壊されてしまったら回復困難。結局は誰の得にもならない」と述べ、私的録画録音補償金制度の必要性を訴えた。クリエイターに対する対価還元へのJEITAの見解については、7月10日に行われる予定の、文化庁審議会での回答を待ちたい、とした。
なお記者会見の冒頭、様々な実演家がビデオメッセージで「CULTURE FIRST」の意義を説明。俳優の大林丈史氏は「デジタルコピーができる機械は、すかしのある紙幣を刷れる印刷機と同じ。そういう機械を売って利潤を売る方々には社会的責任がある」と発言。また、演奏家の崎元釀氏は、「デジタルレコーダーや録音機の存在を否定するものではなく、むしろ喜ばしいこと。しかし、実演家にとっては、私的録音録画補償金からの収入が重要なものとなっている」と指摘した。
また、作詞家のいではく氏は、「私達が作る楽曲は、伝達する機器がなければはじまらない。メーカーが開発した新しい技術が私達の歌を運んでくれることは間違いない。両者がお互いに存在を認め合い、それぞれの利益が調和する社会を確保することが大事だ」とコメントした。
(Phile-web編集部)
記者会見には、実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏と、日本音楽著作権協会の菅原瑞夫氏が出席。まず椎名氏が、JEITAへの公開質問状など、これまでの権利者団体の主張とJEITAの主張を、時系列を追って説明。特に、6月16日に行った公開質問(PDF)の内容については、補償金に対するJEITAの「私的複製が際限なく行われることで権利者に重大な経済的損失が生じる場合に、それを補償するとするものである」という見解について、「『際限なく』複製が行われる状態はそもそも違法であり、法律の解釈が誤っている」などと、時間をかけて説明した。
椎名氏は「JEITAへ14項目の質問を行ったが、JEITAは文化庁の審議会において、これまでまともな回答をしていない。話し合いをはじめた2年前の状況に戻ってしまったような印象を受けるが、今後も質問の山を重ねていこうと思う」とし、「JEITAは、こういう質問に答えず、自分の主張ばかりを繰り言のように繰り返し、あげくのはてに役所を使って圧力をかけてくる」と強く非難した。
両者の関係については、「意見が対立しているという状況ではなく、JEITAが質問に答えないと言うことは、当事者としての権利を失っている。それにもかかわらず、私的録音録画補償金に関する見解で『議論に主体的に参画して参りたい』など書くとは問答無用だ」と述べた。
続いて椎名氏は、ダビング10の実施容認に至った経緯についても説明。詳細はこちらでレポートしたとおりだが、その後、メーカーのバージョンアップの足並みが揃っていないという旨の報道を紹介し、「ダビング10開始が遅れた原因がメーカー側にあったという一部報道があったが、いまになって嫌にリアリティーを増しているなあ、という印象だ」とし、「急に決まったのでメーカーさんはびっくりしてしまったようで、なぜもっと早くキャッチできなかったのかという役所の声も聞こえてきている」と述べた。
ダビング10の実施を容認したことについては、「なぜ譲歩してしまったのか、権利者は重要なコマを失ったのではないか、という指摘もあった」としながら、「我々としては、これだけ常軌を逸した相手と突っ張り続けても、生産的な状態にならないと判断した。状況を変えられるのは権利者側の方だったし、我々の方で逆を行ったということ。メーカー側のいう「消費者重視」と、我々の「消費者重視」をよく見比べてもらいたい」と語った。
椎名氏は最後に、「ダビング10をめぐる正否がゴールではなく、長い目で見た上での選択を行った。クリエイターに対する適正な対価の支払いに関する問題は、今後も文化審議会で仕切り直しの議論を進めていきたい」と述べた。
続いて、菅原氏が補足的な説明を行った。菅原氏は冒頭、「ダビング10の議論の大本に戻って欲しい」と主張。コピーワンスという仕組みの採用には我々は関わっていなかった。コピーワンスの導入当初、データが消えるなどの不具合が多く、これを解消するために議論を重ね、決まったのがダビング10だ」と指摘。
また、私的録音録画補償金制度の成り立ちについても改めて説明。1992年にスタートした当初は、メーカー、クリエイター、ユーザーのバランスを配慮した制度だったが、現状、制度の対象となっていない機器が増えたことにより、補償金そのものが少なくなっていると指摘。
「JEITAの主張は、DRMによってコピーが管理されるのだから、メーカーが補償金支払いの協力義務を負う必要がなくなり、結局ユーザーが対価を支払うことになる。誰が得をするのかを考えてみると、クリエイターは私的録音録画補償金の補償がなくなれば、『特別な場合について、通常の利用を妨げず、著作者の利益を不当に害さない』という考え方との齟齬が起きる。ユーザーについては、DRMによる課金や管理が行われることで、その人の好みがデータとして集約され、プライバシーへの介入などの問題も将来的に出てくる。また、私的録音録画の許容範囲が縮小されることも考えられる」と、クリエイターやユーザーが不利益を被ると主張した。
一方のメーカーについては、「協力義務から解放され、私的録音録画用機器や記録媒体の販売による一方的な利益を享受するようになるが、しかしこういうことを続けていては、我が国の多様な文化をはぐくむ環境や創造のサイクルが破壊されてしまう。こういうものは、一度破壊されてしまったら回復困難。結局は誰の得にもならない」と述べ、私的録画録音補償金制度の必要性を訴えた。クリエイターに対する対価還元へのJEITAの見解については、7月10日に行われる予定の、文化庁審議会での回答を待ちたい、とした。
なお記者会見の冒頭、様々な実演家がビデオメッセージで「CULTURE FIRST」の意義を説明。俳優の大林丈史氏は「デジタルコピーができる機械は、すかしのある紙幣を刷れる印刷機と同じ。そういう機械を売って利潤を売る方々には社会的責任がある」と発言。また、演奏家の崎元釀氏は、「デジタルレコーダーや録音機の存在を否定するものではなく、むしろ喜ばしいこと。しかし、実演家にとっては、私的録音録画補償金からの収入が重要なものとなっている」と指摘した。
また、作詞家のいではく氏は、「私達が作る楽曲は、伝達する機器がなければはじまらない。メーカーが開発した新しい技術が私達の歌を運んでくれることは間違いない。両者がお互いに存在を認め合い、それぞれの利益が調和する社会を確保することが大事だ」とコメントした。
(Phile-web編集部)