【一条真人の体当たり実験室】最強のリビングPCを探せ − VAIO/Lui/Teoを徹底比較
■薄型テレビの普及が生んだリビングPC
従来、メーカー製のデスクトップPCはディスプレイとセットで販売されることがほとんどだった。本体にディスプレイを持たないデスクトップPCをディスプレイとセットで販売するのは、ある意味当然のことだ。
しかし、最近では逆にディスプレイと組み合わせず、単体で販売することを前提とした新ジャンルのデスクトップPCが登場してきた。ユーザーが自分の好みのディスプレイを買ってきてつなげることを想定しているのではない。PCにHDMIポートを搭載することで、家庭内の薄型テレビとHDMI接続することを前提としているのだ。
これによって、ユーザーはディスプレイを購入するコストなしに、PCを導入できることになる。これらのPCはメーカーや製品のキャラクターによって、「テレビサイドPC」とか「エンターテイメント・リビングPC」、「ホームサーバPC」などの名称で呼ばれている。
このジャンルのPCはリビングで使うことを前提としているわけだが、単純にテレビに接続できるだけで、それが「リビングで活用できるPC」であるという意味にはならない。リビングで使われるためには、従来とは異なる操作環境やデザイン、ノイズ、スペースユーティリティなど、AV機器と同じような制約がPCに課せられることになる。
そして、用途に関しても、テレビチューナーを搭載したレコーダー機能、ウェブ、写真、音楽などのメディアプレーヤーとしての機能に重点が置かれることになる。また、テレビをディスプレイとする関係上、ヘビーなビジネス用途に使うのはつらい。リビングPCはスタンダードなPCとは違う特性を要求されることになるのだ。
■代表的なプレーヤー
このような新世代リビングPCは、新ジャンルに踏み出したパイオニア的製品だと言える。現在、このジャンルのメインプレーヤーには、ソニー、NEC、富士通、シャープなどがいる。ソニーは「テレビサイドPC」と称するVAIO TP1を、NECは「ホームサーバPC」と称するLuiを、富士通が「エンターテイメント・リビングPC」と称するTeoをリリースしている。
今回はこの3社にスポットライトを当て、現時点でそれぞれの最上位モデルであるNECの「LUI SX700/1G」、富士通の「TEO/A90D」、ソニー「VGX-TP1DQ/B」を使ってみて、それぞれの実力、特性を検証してみた。
■外観・設置性を比較
ソニーのTP1は実に直径27センチのコンパクトな円筒形であり、もっとも置く場所を選ばない。テレビサイドPCという呼称もうなずけるサイズだ。ボディ上面はフラットであり、エアフローに関連したものがないため、軽い雑誌などを上に置いても特に問題ない感じだ。メーカーによれば、同一機種の重ね置きも可能だという。なお、排気は背面から行われるため、背面はやや熱くなる。
仕上がりも美しく、背面の端子をマグネット式のカバーで隠せるなど、リビングに置いても違和感がないデザイン性を持っている。VGX-TP1DQ/Bはブラックボディだが、ホワイトボディモデルも用意されている。
これに対して、Teoはごく普通の薄型マイクロATXという印象だが、厚みは薄い。幅は34センチとTP1と比較すれば広いが、厚みは75mmであり、TP1の91mmよりかなり薄い。このTeoを一見すると、ボディ上面にある空冷のための穴が目立つ。これはちょうどCPUの位置にあるので、穴をふさぐような形で上にものを置くと、冷却に支障をきたすことになる。なお、Teoは縦置きのためのスタンドもオプションで発売されている。
このようにTeoのサイズはTP1よりも一回り以上大きいわけだが、TP1がそのコンパクトさを実現できたのは、従来の約1/3のサイズを実現した自社開発のデジタルダブルチューナーを搭載していることもある。
これに対して、Teoはピクセラ製デジタルチューナーを搭載していると推定される。ただし、TP1が地デジにしか対応しないのに対して、TeoはBS、110度CSデジタルにもダブルで対応している点が異なる。
最後のLuiのサイズは、430(W)×360(D)×180(H)mmと、これら2者と比較すれば圧倒的に大きく、重量は約15キロにもなる。TP1やTeoとの比較以前に、普通のPCと比較しても大きく、重いわけだ。なお、チューナーは地デジ×2、BS×1、110度CS×1となっている。
ちなみにHDD容量は「LUI SX700/1G」が1TB、「TEO/A90D」が750GB、「VGX-TP1DQ/B」が500GBとなる。
■キーボード/マウス/リモコンの使い勝手
操作環境としては、3者ともにワイヤレスタイプのキーボードやマウスに加え、リビングで操作しやすいリモコンを付属させている。
ただし、そのコンセプトは大きく異なっている。TP1はタッチパッド搭載のコンパクトなキーボードだけで、マウスが付属しない。このキーボードはコンパクトなので気軽に膝の上に置いて操作することも可能だ。キータッチは上質で、タッチが柔らかくストロークが深い。
リモコンはメディアセンターを呼び出すためのキーと、AV機能を呼び出すための「VAIO」キーなどを持っている。同社のレコーダーのリモコンと比較するとややチープな印象だが、操作性は優れている。
これに対して、Teoはタッチパッド搭載のコンパクトキーボードでありながら、マウスも付属する。このタッチパッドは一般的なキーボードの下ではなく、右に搭載されている。そのため、膝の上に置いて使うとやや使いにくい。キータッチはやや固く、多少安っぽく感じる。
リモコンはメディアセンターを呼び出すためのキーと、AV機能のメニューを呼び出すための「MeMedia」キーなどを持っている。番組表、録画番組などの使用頻度の高いキーが一番下にレイアウトされており、やや非効率な印象だ。
Luiのキーボードはタッチパッドを搭載せず、代わりにテンキーを搭載している。キーボードのタッチは上質で、長時間のタイピングにも耐えそうだ。キーボード、マウスともにコストがかかっている印象を受ける。
リモコンはメディアセンターキーに加え、後述する「LuiStaition」を呼び出すLuiボタンを持つ。レイアウトや重量バランスも悪くなく、使いやすい。レコーダーに付属するリモコンに迫る完成度の高さだ。
■録画再生機能の操作環境
TP1の視聴録画関連機能は新開発の「Giga Pocket Digital」によって操作される。これは複数のソフトの集合体であり、それ自体がメニューになっているわけではない。同じ機能に対して、マウス・キーボードとリモコンの2系統のソフトを持っており、それぞれで使いやすいインターフェースを実現している。
マウス・キーボード操作では、スタートメニューからそれぞれのソフトを起動することになる。これに対し、リモコン操作の場合は、リモコンのVAIOボタンで画面上部にメニューが表示され、目的の機能を選択して起動することができる。
これに対してLuiでは「LuiStation」というレコーダーのような録画再生のための総合ソフトで録画再生の操作を行う。LuiStationはマウス・キーボードでも操作できるが、リモコンでの操作のほうがしっくりくる。横軸方向に操作のジャンルがあり、そのジャンルにカーソルを合わせると、縦方向に実行可能なメニューが表示される。メニュー動作のスムーズさとリズムはどんなときもほぼ一定で、家電のように安定している。
そして、Teoでは「MyMedia」メニューというAV関連の総合メニューから起動する。これはPCアプリのランチャーのようなルックスであり、マウス・キーボードでも、リモコンでも同様に操作できる。
■EPG・予約録画機能
TP1のEPGは、番組のジャンルによって色を変えるなどの仕組みはないが、スクロールの速度は速い。また、ツールボタンからテレビを起動したり、ビデオ一覧を表示したりできるなど、操作性も優れている。また、「おまかせ・まる録」という自動録画機能を搭載しており、キーワード、ジャンルなどからユーザーが好みの番組を自動録画できる。
これに対し、Luiの番組表は文字が大きく、ジャンルごとに色を変えるなど、情報を把握しやすくしているが、1画面あたりの表示情報は少なくなる。また、スクロールはあまり速くない。なお、Luiでも「おまかせ自動録画機能」により、キーワード、ジャンルによる自動録画が可能だ。また、Lui独特の機能として、特定曜日、特定チャンネルの特定時間帯の番組をまとめて予約録画できる「まるごと録画」という機能もある。
Teoは3機種のなかでは唯一、GガイドのEPGを利用しており、そのせいで画面端に広告が表示される。検索メニューから、ジャンルやキーワード、出演者などから番組を検索できるのは便利だが、番組表が現在の時間より数時間前でも表示されてしまうのはあまり使い勝手が良くなく、改善が望まれる。
■録画番組の再生機能
TP1は録画番組の再生を「ビデオ一覧」アプリで行う。録画タイトルごとにサムネイルが表示されるため、どんな録画なのかを把握しやすいのが便利だ。デフォルトでは日付別に新しいものが上から表示されるが、必要に応じてジャンルやチャンネル別の表示も可能。この表示切り替えは左のツリー画面が簡単に操作できる。
また、カタログビューと呼ばれる解析機能により、番組中のCMを解析し、どんなCMが録られたか調べたり、その会社へのリンクなどを表示することまで可能だ。さらにスポーツ番組では重要な部分だけを短時間で視聴できるダイジェスト再生機能を搭載。そして、映像のサムネイルを表示し、ユーザーが見たい位置を把握しやすいフィルムロール機能も搭載している。
Luiの場合、録画番組の再生はLuiStationの「録画番組」メニューから実行する。録画番組をさまざまな方法で表示することができる。「フォルダ別」では、「録画フォルダ」には普通に録画したタイトルを、「まるごと録画」フォルダでは「まるごと録画」機能で録画したタイトルを、「おまかせ番組」フォルダには、おまかせ番組機能で録画したタイトルが表示される。ちなみに、ジャンルを選択することで、目的のジャンルの番組だけを表示させることもできる。
そして、フォルダ別以外に、チャンネル別、日付別、おまかせ別の表示が可能になる。Luiでは、自動録画のためには条件を登録することになるが、おまかせ別ではその条件ごとの録画の表示が可能になる。また、Lui独特の機能として「続き再生」というメニューがある。これは最後に再生した録画タイトルを、再生停止位置から再生してくれるという機能で、視聴を中止したタイトルの続きをすぐに見るには便利だ。
Teoではテレビメニューのトップメニューから「録画番組」を実行することで、時間軸で録画タイトルをリスト表示できる。再生はこのリストからダイレクトに行うのではなく、目的のタイトルをダブルクリックして、タイトルの詳細情報を表示させ、そのコマンドメニューから実行する。タイトルリストからダイレクトに再生できないのは、ややまどろっこしい。
また、必要に応じて、ジャンルごとなどに表示させることもできるが、この機能を呼び出すまでの手順はやや面倒だ。テレビ画面のトップメニュー>「番組検索」>「録画番組検索」>「ジャンル選択」というステップが必要になる。
■ダビング・編集機能
TP1のダビング機能は録画一覧機能から「書き出し」で起動する。書き出しはブルーレイ、DVDに加えて、メモリースティック、SDメモリーカードへも行える。複数のタイトルを選択して、一度に書き出すこともできる。メモリースティック、SDへの転送では、動画形式はH.264に変換され、PSPなどで再生できる。なお、SDメモリーカードへの書き出しには有料のオプションモジュールが必要になる。
さらにTP1は地デジのチャプター編集機能も搭載している。そして、このチャプターに基づいて、選択したチャプターだけをダビングすることが可能であるため、本編だけをダビングすることが可能だ。また、自動チャプター作成機能を搭載しており、録画時にCM、本編の切れ目に自動的にチャプターを作成してくれる。これは現時点のテレパソではTP1だけが搭載する機能だ。
Luiでは、ダビング機能はLuiStationから行う。目的のタイトルを選択してリストに追加し、「書き出し」を実行することでダビングができる。また、必要に応じて、低ビットレートに変換して書き出すこともできる。
これらに対して、Teoではダビングは録画タイトルの詳細表示から「BD作成」、「DVD作成」をクリックして実行する。そのため、複数タイトルを一度にダビングすることができない。
■マウス操作でのネットテレビ
TP1/Luiはネットテレビに関しては、独自ソフトでのサポートがないが、メディアセンターを搭載しているので、マウス操作でも、これでネットテレビを視聴できる。しかし、メディアセンターの場合、メディアセンターのユーザーインターフェースの制限に対して、サービスを組み直しているため、それらのサービスのコンテンツをフルに利用できない。
これに対して、TeoではGyaoなど一部の対応するネットテレビに限られるが、リモコンでそのままカーソルを移動させて操作することができ、すべてのコンテンツを見ることができる。残念なのは、Gyaoは現時点では解像度があまり高くなく、大型テレビで見た場合、あまり美しい映像ではないため、この機能にメリットを感じにくいという点だ。
■BD再生機能をCPU負荷で比較
3機種はいずれもBD/DVDの再生にインタービデオ社のWinDVDを使っている。ここでは「バイオハザード」、「スパイダーマン3」の2つのブルーレイタイトルを使って、3機種のCPU負荷を見てみた。ちなみに圧縮方式とビットレートは、バイオハザードがMPEG-4 AVC/H.264の31Mbps、スパイダーマン3が同コーデックの15Mbpsになる。
結果、CPU負荷がもっとも軽いのはLuiであり、負荷がもっとも重いのはTeoだった。LuiとTP1の違いは僅差であり、Teoを大きく引き離している。
■発熱とノイズはLuiが極めて優秀
録画再生を中心に機能面を比較してきたが、リビングで使うということになれば、ノイズや発熱も問題にしないわけにはいかない。最初にナンバーワンとワーストワンをあげよう。もっとも動作音が静かで発熱が気にならないのは、ほとんどの読者が予想されるであろう通り、Luiである。
Luiの動作音はきわめて静粛であり、予約録画時も前面のインフォメーションランプをみないと、動作しているのかどうか、わからないほどだ。2番組を同時録画している状態でもきわめて静かであり、メーカーは温度25度の環境において2番組を録画しつつ、BDを再生していても、ノイズが約30dBと図書館並であると公称しているが、実際に使ってみても、たしかにそのレベルに押さえられていると思う。
発熱に関しても、ボディを触っても特に熱くなっている感じはない。ボディが大きいため、エアキャパシティも大きいのだろう。
逆にもっとも騒がしいのはTeoだ。前述のようにTeoはボディ上面のCPUがある部分に冷却用の穴が空いているため、CPUファンが高速回転すると、そのノイズが周囲に拡散してしまうのだ。また、高負荷時にはボディ全体が熱くなっているのを感じる。
TP1はLuiほど静かではないが、Teoと比較すれば、かなり静音であると感じる。TP1はTeoのような上面ではなく、背面から排気するようになっているため、ノイズがあるにはあるが、そううるさくは感じない。しかし、ボディ後部の床に触るとやや暖かくなっており、長期間駆動での周囲への影響が気にならないでもない。
■HDMIリンク機能に一部対応するTeo
絶対的な機能でいま一歩のところが多いTeoではあるが、パナソニックのVIERA、シャープのAQUOSなどの液晶テレビの一部機種から、HDMIリンク機能によってMyMediaの一部の機能を使えるという独自の機能を持っている。あくまでも一部の機能であり、VIERA Linkの場合、録画関連の機能では録画の再生だけが可能だ。録画予約はできないのが残念ではある。
■ネットワーク機能、スタビリティに優れるLui
編集機能などに関して、TP1に劣るLuiだが、ネットワーク機能においてはTP1を大きく凌ぐ。同時2チャンネル配信が可能なDTCP-IP対応のDLNAサーバー機能を搭載するし、リモーターと呼ばれる端末によりネットワーク経由で遠隔地からデータを見たり、操作したりすることが可能だ。
また、LuiではPC部分とHDDレコーダー部分の処理を分離することで、動作の安定性を高めている。さらにHDDレコーダー部分は専用監視マイコンによって常時監視され、トラブル時には自動再起動するようになっている。そして、録画時には2つのHDDに交互に録画することで、片方のHDDが早く消耗することを防いでくれる。Luiは「ホームサーバPC」という名前通り、ネットワーク機能に優れ、動作の安定性に関しても他の機種より配慮されている。
■最強のリビングPCは?
総合的に見た場合、現時点で最強のリビングPCと言えるのはNECのLui SX700/1Gではないかと思う。録画再生機能は高いレベルにあり、その静音性、動作の安定性、強力なネットワーク機能は他の2機種を超えている。HDD容量も1TBともっとも余裕がある。
しかし、最強であるからと言って、誰にでもお勧めできるわけではない。何しろ、Luiはボディサイズが大きく、さらに価格も他の2者を大きく引き離している。それらを許容できる、ある種、エクスクルーシブな人にだけLuiはお薦めできると言えよう。
VAIO VGX-TP1DQ/Bは自社開発のGiga Pocket Digitalによって高度な機能を実現し、テレパソの機能の基準を1段高い位置に引き上げたとも言える。ハードウェア的にもコンパクトかつ洗練されており、価格的にもリーズナブルなものになっているなど、多くの人にお勧めできるリビングPCになっている。
TEO/A90Dは機能的にも操作性的にも、多くの面でTP1やLuiのレベルには及ばない感がある。しかし、BS、110度CSのデジタルWチューナーの搭載や、ビエラやアクオスとのHDMIリンク機能、HDDが750GBとTP1よりやや大きい点などのアドバンテージもある。そこに大きなメリットを感じる人なら、Teoを選択してもいいだろう。
(一条真人)
執筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。
従来、メーカー製のデスクトップPCはディスプレイとセットで販売されることがほとんどだった。本体にディスプレイを持たないデスクトップPCをディスプレイとセットで販売するのは、ある意味当然のことだ。
しかし、最近では逆にディスプレイと組み合わせず、単体で販売することを前提とした新ジャンルのデスクトップPCが登場してきた。ユーザーが自分の好みのディスプレイを買ってきてつなげることを想定しているのではない。PCにHDMIポートを搭載することで、家庭内の薄型テレビとHDMI接続することを前提としているのだ。
これによって、ユーザーはディスプレイを購入するコストなしに、PCを導入できることになる。これらのPCはメーカーや製品のキャラクターによって、「テレビサイドPC」とか「エンターテイメント・リビングPC」、「ホームサーバPC」などの名称で呼ばれている。
このジャンルのPCはリビングで使うことを前提としているわけだが、単純にテレビに接続できるだけで、それが「リビングで活用できるPC」であるという意味にはならない。リビングで使われるためには、従来とは異なる操作環境やデザイン、ノイズ、スペースユーティリティなど、AV機器と同じような制約がPCに課せられることになる。
そして、用途に関しても、テレビチューナーを搭載したレコーダー機能、ウェブ、写真、音楽などのメディアプレーヤーとしての機能に重点が置かれることになる。また、テレビをディスプレイとする関係上、ヘビーなビジネス用途に使うのはつらい。リビングPCはスタンダードなPCとは違う特性を要求されることになるのだ。
■代表的なプレーヤー
このような新世代リビングPCは、新ジャンルに踏み出したパイオニア的製品だと言える。現在、このジャンルのメインプレーヤーには、ソニー、NEC、富士通、シャープなどがいる。ソニーは「テレビサイドPC」と称するVAIO TP1を、NECは「ホームサーバPC」と称するLuiを、富士通が「エンターテイメント・リビングPC」と称するTeoをリリースしている。
今回はこの3社にスポットライトを当て、現時点でそれぞれの最上位モデルであるNECの「LUI SX700/1G」、富士通の「TEO/A90D」、ソニー「VGX-TP1DQ/B」を使ってみて、それぞれの実力、特性を検証してみた。
■外観・設置性を比較
ソニーのTP1は実に直径27センチのコンパクトな円筒形であり、もっとも置く場所を選ばない。テレビサイドPCという呼称もうなずけるサイズだ。ボディ上面はフラットであり、エアフローに関連したものがないため、軽い雑誌などを上に置いても特に問題ない感じだ。メーカーによれば、同一機種の重ね置きも可能だという。なお、排気は背面から行われるため、背面はやや熱くなる。
仕上がりも美しく、背面の端子をマグネット式のカバーで隠せるなど、リビングに置いても違和感がないデザイン性を持っている。VGX-TP1DQ/Bはブラックボディだが、ホワイトボディモデルも用意されている。
これに対して、Teoはごく普通の薄型マイクロATXという印象だが、厚みは薄い。幅は34センチとTP1と比較すれば広いが、厚みは75mmであり、TP1の91mmよりかなり薄い。このTeoを一見すると、ボディ上面にある空冷のための穴が目立つ。これはちょうどCPUの位置にあるので、穴をふさぐような形で上にものを置くと、冷却に支障をきたすことになる。なお、Teoは縦置きのためのスタンドもオプションで発売されている。
このようにTeoのサイズはTP1よりも一回り以上大きいわけだが、TP1がそのコンパクトさを実現できたのは、従来の約1/3のサイズを実現した自社開発のデジタルダブルチューナーを搭載していることもある。
これに対して、Teoはピクセラ製デジタルチューナーを搭載していると推定される。ただし、TP1が地デジにしか対応しないのに対して、TeoはBS、110度CSデジタルにもダブルで対応している点が異なる。
最後のLuiのサイズは、430(W)×360(D)×180(H)mmと、これら2者と比較すれば圧倒的に大きく、重量は約15キロにもなる。TP1やTeoとの比較以前に、普通のPCと比較しても大きく、重いわけだ。なお、チューナーは地デジ×2、BS×1、110度CS×1となっている。
ちなみにHDD容量は「LUI SX700/1G」が1TB、「TEO/A90D」が750GB、「VGX-TP1DQ/B」が500GBとなる。
■キーボード/マウス/リモコンの使い勝手
操作環境としては、3者ともにワイヤレスタイプのキーボードやマウスに加え、リビングで操作しやすいリモコンを付属させている。
ただし、そのコンセプトは大きく異なっている。TP1はタッチパッド搭載のコンパクトなキーボードだけで、マウスが付属しない。このキーボードはコンパクトなので気軽に膝の上に置いて操作することも可能だ。キータッチは上質で、タッチが柔らかくストロークが深い。
リモコンはメディアセンターを呼び出すためのキーと、AV機能を呼び出すための「VAIO」キーなどを持っている。同社のレコーダーのリモコンと比較するとややチープな印象だが、操作性は優れている。
これに対して、Teoはタッチパッド搭載のコンパクトキーボードでありながら、マウスも付属する。このタッチパッドは一般的なキーボードの下ではなく、右に搭載されている。そのため、膝の上に置いて使うとやや使いにくい。キータッチはやや固く、多少安っぽく感じる。
リモコンはメディアセンターを呼び出すためのキーと、AV機能のメニューを呼び出すための「MeMedia」キーなどを持っている。番組表、録画番組などの使用頻度の高いキーが一番下にレイアウトされており、やや非効率な印象だ。
Luiのキーボードはタッチパッドを搭載せず、代わりにテンキーを搭載している。キーボードのタッチは上質で、長時間のタイピングにも耐えそうだ。キーボード、マウスともにコストがかかっている印象を受ける。
リモコンはメディアセンターキーに加え、後述する「LuiStaition」を呼び出すLuiボタンを持つ。レイアウトや重量バランスも悪くなく、使いやすい。レコーダーに付属するリモコンに迫る完成度の高さだ。
■録画再生機能の操作環境
TP1の視聴録画関連機能は新開発の「Giga Pocket Digital」によって操作される。これは複数のソフトの集合体であり、それ自体がメニューになっているわけではない。同じ機能に対して、マウス・キーボードとリモコンの2系統のソフトを持っており、それぞれで使いやすいインターフェースを実現している。
マウス・キーボード操作では、スタートメニューからそれぞれのソフトを起動することになる。これに対し、リモコン操作の場合は、リモコンのVAIOボタンで画面上部にメニューが表示され、目的の機能を選択して起動することができる。
これに対してLuiでは「LuiStation」というレコーダーのような録画再生のための総合ソフトで録画再生の操作を行う。LuiStationはマウス・キーボードでも操作できるが、リモコンでの操作のほうがしっくりくる。横軸方向に操作のジャンルがあり、そのジャンルにカーソルを合わせると、縦方向に実行可能なメニューが表示される。メニュー動作のスムーズさとリズムはどんなときもほぼ一定で、家電のように安定している。
そして、Teoでは「MyMedia」メニューというAV関連の総合メニューから起動する。これはPCアプリのランチャーのようなルックスであり、マウス・キーボードでも、リモコンでも同様に操作できる。
■EPG・予約録画機能
TP1のEPGは、番組のジャンルによって色を変えるなどの仕組みはないが、スクロールの速度は速い。また、ツールボタンからテレビを起動したり、ビデオ一覧を表示したりできるなど、操作性も優れている。また、「おまかせ・まる録」という自動録画機能を搭載しており、キーワード、ジャンルなどからユーザーが好みの番組を自動録画できる。
これに対し、Luiの番組表は文字が大きく、ジャンルごとに色を変えるなど、情報を把握しやすくしているが、1画面あたりの表示情報は少なくなる。また、スクロールはあまり速くない。なお、Luiでも「おまかせ自動録画機能」により、キーワード、ジャンルによる自動録画が可能だ。また、Lui独特の機能として、特定曜日、特定チャンネルの特定時間帯の番組をまとめて予約録画できる「まるごと録画」という機能もある。
Teoは3機種のなかでは唯一、GガイドのEPGを利用しており、そのせいで画面端に広告が表示される。検索メニューから、ジャンルやキーワード、出演者などから番組を検索できるのは便利だが、番組表が現在の時間より数時間前でも表示されてしまうのはあまり使い勝手が良くなく、改善が望まれる。
■録画番組の再生機能
TP1は録画番組の再生を「ビデオ一覧」アプリで行う。録画タイトルごとにサムネイルが表示されるため、どんな録画なのかを把握しやすいのが便利だ。デフォルトでは日付別に新しいものが上から表示されるが、必要に応じてジャンルやチャンネル別の表示も可能。この表示切り替えは左のツリー画面が簡単に操作できる。
また、カタログビューと呼ばれる解析機能により、番組中のCMを解析し、どんなCMが録られたか調べたり、その会社へのリンクなどを表示することまで可能だ。さらにスポーツ番組では重要な部分だけを短時間で視聴できるダイジェスト再生機能を搭載。そして、映像のサムネイルを表示し、ユーザーが見たい位置を把握しやすいフィルムロール機能も搭載している。
Luiの場合、録画番組の再生はLuiStationの「録画番組」メニューから実行する。録画番組をさまざまな方法で表示することができる。「フォルダ別」では、「録画フォルダ」には普通に録画したタイトルを、「まるごと録画」フォルダでは「まるごと録画」機能で録画したタイトルを、「おまかせ番組」フォルダには、おまかせ番組機能で録画したタイトルが表示される。ちなみに、ジャンルを選択することで、目的のジャンルの番組だけを表示させることもできる。
そして、フォルダ別以外に、チャンネル別、日付別、おまかせ別の表示が可能になる。Luiでは、自動録画のためには条件を登録することになるが、おまかせ別ではその条件ごとの録画の表示が可能になる。また、Lui独特の機能として「続き再生」というメニューがある。これは最後に再生した録画タイトルを、再生停止位置から再生してくれるという機能で、視聴を中止したタイトルの続きをすぐに見るには便利だ。
Teoではテレビメニューのトップメニューから「録画番組」を実行することで、時間軸で録画タイトルをリスト表示できる。再生はこのリストからダイレクトに行うのではなく、目的のタイトルをダブルクリックして、タイトルの詳細情報を表示させ、そのコマンドメニューから実行する。タイトルリストからダイレクトに再生できないのは、ややまどろっこしい。
また、必要に応じて、ジャンルごとなどに表示させることもできるが、この機能を呼び出すまでの手順はやや面倒だ。テレビ画面のトップメニュー>「番組検索」>「録画番組検索」>「ジャンル選択」というステップが必要になる。
■ダビング・編集機能
TP1のダビング機能は録画一覧機能から「書き出し」で起動する。書き出しはブルーレイ、DVDに加えて、メモリースティック、SDメモリーカードへも行える。複数のタイトルを選択して、一度に書き出すこともできる。メモリースティック、SDへの転送では、動画形式はH.264に変換され、PSPなどで再生できる。なお、SDメモリーカードへの書き出しには有料のオプションモジュールが必要になる。
さらにTP1は地デジのチャプター編集機能も搭載している。そして、このチャプターに基づいて、選択したチャプターだけをダビングすることが可能であるため、本編だけをダビングすることが可能だ。また、自動チャプター作成機能を搭載しており、録画時にCM、本編の切れ目に自動的にチャプターを作成してくれる。これは現時点のテレパソではTP1だけが搭載する機能だ。
Luiでは、ダビング機能はLuiStationから行う。目的のタイトルを選択してリストに追加し、「書き出し」を実行することでダビングができる。また、必要に応じて、低ビットレートに変換して書き出すこともできる。
これらに対して、Teoではダビングは録画タイトルの詳細表示から「BD作成」、「DVD作成」をクリックして実行する。そのため、複数タイトルを一度にダビングすることができない。
■マウス操作でのネットテレビ
TP1/Luiはネットテレビに関しては、独自ソフトでのサポートがないが、メディアセンターを搭載しているので、マウス操作でも、これでネットテレビを視聴できる。しかし、メディアセンターの場合、メディアセンターのユーザーインターフェースの制限に対して、サービスを組み直しているため、それらのサービスのコンテンツをフルに利用できない。
これに対して、TeoではGyaoなど一部の対応するネットテレビに限られるが、リモコンでそのままカーソルを移動させて操作することができ、すべてのコンテンツを見ることができる。残念なのは、Gyaoは現時点では解像度があまり高くなく、大型テレビで見た場合、あまり美しい映像ではないため、この機能にメリットを感じにくいという点だ。
■BD再生機能をCPU負荷で比較
3機種はいずれもBD/DVDの再生にインタービデオ社のWinDVDを使っている。ここでは「バイオハザード」、「スパイダーマン3」の2つのブルーレイタイトルを使って、3機種のCPU負荷を見てみた。ちなみに圧縮方式とビットレートは、バイオハザードがMPEG-4 AVC/H.264の31Mbps、スパイダーマン3が同コーデックの15Mbpsになる。
結果、CPU負荷がもっとも軽いのはLuiであり、負荷がもっとも重いのはTeoだった。LuiとTP1の違いは僅差であり、Teoを大きく引き離している。
TP1 | Lui | Teo | |
バイオハザード | 35%前後 | 33%前後 | 46%前後 |
スパイダーマン3 | 28%前後 | 26%前後 | 45%前後 |
■発熱とノイズはLuiが極めて優秀
録画再生を中心に機能面を比較してきたが、リビングで使うということになれば、ノイズや発熱も問題にしないわけにはいかない。最初にナンバーワンとワーストワンをあげよう。もっとも動作音が静かで発熱が気にならないのは、ほとんどの読者が予想されるであろう通り、Luiである。
Luiの動作音はきわめて静粛であり、予約録画時も前面のインフォメーションランプをみないと、動作しているのかどうか、わからないほどだ。2番組を同時録画している状態でもきわめて静かであり、メーカーは温度25度の環境において2番組を録画しつつ、BDを再生していても、ノイズが約30dBと図書館並であると公称しているが、実際に使ってみても、たしかにそのレベルに押さえられていると思う。
発熱に関しても、ボディを触っても特に熱くなっている感じはない。ボディが大きいため、エアキャパシティも大きいのだろう。
逆にもっとも騒がしいのはTeoだ。前述のようにTeoはボディ上面のCPUがある部分に冷却用の穴が空いているため、CPUファンが高速回転すると、そのノイズが周囲に拡散してしまうのだ。また、高負荷時にはボディ全体が熱くなっているのを感じる。
TP1はLuiほど静かではないが、Teoと比較すれば、かなり静音であると感じる。TP1はTeoのような上面ではなく、背面から排気するようになっているため、ノイズがあるにはあるが、そううるさくは感じない。しかし、ボディ後部の床に触るとやや暖かくなっており、長期間駆動での周囲への影響が気にならないでもない。
■HDMIリンク機能に一部対応するTeo
絶対的な機能でいま一歩のところが多いTeoではあるが、パナソニックのVIERA、シャープのAQUOSなどの液晶テレビの一部機種から、HDMIリンク機能によってMyMediaの一部の機能を使えるという独自の機能を持っている。あくまでも一部の機能であり、VIERA Linkの場合、録画関連の機能では録画の再生だけが可能だ。録画予約はできないのが残念ではある。
■ネットワーク機能、スタビリティに優れるLui
編集機能などに関して、TP1に劣るLuiだが、ネットワーク機能においてはTP1を大きく凌ぐ。同時2チャンネル配信が可能なDTCP-IP対応のDLNAサーバー機能を搭載するし、リモーターと呼ばれる端末によりネットワーク経由で遠隔地からデータを見たり、操作したりすることが可能だ。
また、LuiではPC部分とHDDレコーダー部分の処理を分離することで、動作の安定性を高めている。さらにHDDレコーダー部分は専用監視マイコンによって常時監視され、トラブル時には自動再起動するようになっている。そして、録画時には2つのHDDに交互に録画することで、片方のHDDが早く消耗することを防いでくれる。Luiは「ホームサーバPC」という名前通り、ネットワーク機能に優れ、動作の安定性に関しても他の機種より配慮されている。
■最強のリビングPCは?
総合的に見た場合、現時点で最強のリビングPCと言えるのはNECのLui SX700/1Gではないかと思う。録画再生機能は高いレベルにあり、その静音性、動作の安定性、強力なネットワーク機能は他の2機種を超えている。HDD容量も1TBともっとも余裕がある。
しかし、最強であるからと言って、誰にでもお勧めできるわけではない。何しろ、Luiはボディサイズが大きく、さらに価格も他の2者を大きく引き離している。それらを許容できる、ある種、エクスクルーシブな人にだけLuiはお薦めできると言えよう。
VAIO VGX-TP1DQ/Bは自社開発のGiga Pocket Digitalによって高度な機能を実現し、テレパソの機能の基準を1段高い位置に引き上げたとも言える。ハードウェア的にもコンパクトかつ洗練されており、価格的にもリーズナブルなものになっているなど、多くの人にお勧めできるリビングPCになっている。
TEO/A90Dは機能的にも操作性的にも、多くの面でTP1やLuiのレベルには及ばない感がある。しかし、BS、110度CSのデジタルWチューナーの搭載や、ビエラやアクオスとのHDMIリンク機能、HDDが750GBとTP1よりやや大きい点などのアドバンテージもある。そこに大きなメリットを感じる人なら、Teoを選択してもいいだろう。
(一条真人)
執筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。