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活動の環を広げていく

iPhoneで環境問題に立ち向かう。ごみ拾いSNSアプリ「ピリカ」を手がけた開発者の声

公開日 2022/04/20 15:09 山本 敦
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毎年4月22日は、地球環境のことを考えて行動する日として提案された「アースデイ」だ。Apple Storeの店舗は4月19日からロゴの葉をグリーンに変えてアースデイを迎えている。

2022年のアースデイ到来に合わせて、Apple Store表参道もロゴの葉をグリーンに着せ替えた

今回はアースデイの到来にちなんで、iPhoneやiPadを通じて参加できるアプリを紹介しよう。ごみ拾いを楽しくするソーシャルアプリ「ピリカ」だ。

プラスチックごみ問題に取り組む新鋭のスタートアップ

ピリカは2011年に京都大学の研究室に集う学生が中心になって立ち上げた、アプリと同じ名前のスタートアップだ。

ITのテクノロジーを通じてごみ拾いSNSや、海洋プラスチック問題に取り組むためのプラットフォームを開発・運営している。ピリカにはアイヌ語で「美しい」という意味がある。会社とアプリのロゴに冠する鳥の名前はエトピリカ。日本国内にも生息しているが、環境省レッドリストに掲載されている絶滅のおそれがある希少な鳥だ。

京都大学の研究室の学生が中心になって立ち上げた、ごみ拾いSNS「ピリカ」

ピリカの代表である小嶌不二夫氏は小学生の頃に地球の環境問題に興味を持ち、大学に進学後は研究を深めた。そして卒業後により実践的な方法をつくるため起業を決意した。

「ピリカではプラスチックごみの問題に取り組んでいます。世界的にプラスチックの消費量が増えて問題はますます深刻化しています。現在海洋に流出するプラスチックごみの量は、海に住む魚の総重量である7.5億トンも上回っていると言われています。ごみは屋外環境に放置されると時間の経過とともに細かなマイクロプラスチックの破片になり、これを海洋生物が摂取すると窒息したり、胃袋が塞がって餓死してしまいます。有害物質を取り込んだ魚を人間が食べて、間接的に受ける影響についても昨今関心が集まっています」(小嶌氏)

株式会社ピリカ/一般社団法人ピリカの代表をつとめる小嶌不二夫氏

iPhone対応のごみ拾いSNS「ピリカ」

小嶌氏が代表を務めるピリカは2011年に創業して、現在は約50名が環境問題解決を目的とした様々なプロジェクトを展開している。ピリカの代表的な3つの事業の柱をこれから順に紹介しよう。最初がモバイルアプリの「ピリカ」、次のふたつが「陸上」と「海・河川」に流出しているごみの調査だ。

iPhoneにも対応するモバイルアプリ版のピリカ

ピリカはユーザーがごみ拾いの成果を記録し、投稿できるSNS系アプリだ。iPhoneのカメラで拾ったごみを写真に撮ってアップする。ごみを拾った他のユーザーの投稿には “いいね” の代わりに “ありがとう” を付けたり、コメントを投稿できる。一人ひとりの環境問題への取り組みに感謝を表しながら、ごみ拾いのボランティア活動を広げるプラットフォームだ。

アプリは2022年の春現在、世界112の国と地域で利用されている。ローンチ以降から延べ200万人を超えるユーザーが累計2.3億個のごみを回収してきたという。

小嶌氏によると「“ごみ拾い” は実践している人々が行為をひけらかさないうえ、ごみは拾われた後に証拠が残らない。だから善い行いが連鎖しにくい」のだという。「SNSにごみ拾いの記録を残しておけば、誰かの行為を見た周りの人々が刺激を受けたり、後に続きやすくなる。ごみを拾った人に感謝の気持ちも伝えられるから活動が長続きします」。

街で拾ったごみの写真をiPhoneで撮影。ピリカアプリからコメントを加えて投稿する

拾った場所や日時と一緒に活動を記録してシェアする

自治体・企業との連携に発展した

ピリカアプリの評判は全国の自治体に広がり、プラットフォームが採用されたことで同社のビジネスが軌道に乗った。現在は自治体版と企業・団体版として、それぞれのニーズに合わせてカスタマイズしたピリカを納品するビジネスを事業化して成果を挙げている。

ピリカ自治体版では、地域ごとのごみ拾い活動の様子や成果を集約し、自治体の取り組みを発信できるWebページを提供している。ごみ拾いの実施状況を効率よく定量的に把握したり、清掃活動促進施策の効果測定にも寄与するという。

自治体版のピリカ。清掃活動の「見える化」に貢献しているという

ピリカ企業・団体版もまた、ごみ拾いに参加するグループがそれぞれの活動の様子や成果をWebを通じて発信するプラットフォームとして機能する。こちらのサービスも大小様々な規模の企業が取り組むグリーン活動による社会貢献、SDGs活動のPR、あるいは社内外のコミュニケーションツールとして活用されている。

企業・団体版のピリカ。企業活動のPRや、社内外のコミュニケーションツールとしても活用されている

2020年以降、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響を受けて、大勢の人が集まるごみ清掃活動が難しくなった。その代わりに個人単位による “小さな清掃活動” はコロナ禍の中で増加したのだと小嶌氏は語る。小規模な清掃活動の効果を高めるためのツールとして、ピリカアプリも多くのユーザーに使われるようになったそうだ。小嶌氏によると、実際にボランティアによる清掃活動により回収されているごみの量は、日本全体では横ばいのレベルが保てているという。

ピリカでは2018年に一般社団法人ピリカを設立。非営利の法人がごみ回収に関連する技術やノウハウ、独自に開発した端末を貸し出せる体制を整えたことにより、同社の活動は公益財団法人や国連の取り組みにもつながり、さらに大きく発展しつつある。

街に落ちているごみを検知・解析するAIソフトウェア「タカノメ」

ピリカではごみ拾いSNSアプリからの投稿、アップされた写真の件数などのデータを元にユーザーが回収した「ごみの量」を計測している。ほかにも様々な方法で陸上、および河川や海に流出しているごみを調査し、同社の基幹プロジェクトとして推進している。目的達成のため、独自にハードウェア・ソフトウェアのツールも開発する。

ピリカはごみの流出を防ぐため、独自にソフトウェア・ハードウェアも開発している

「タカノメ」は陸上のごみの状況を調べるために開発したAI解析ソフトウェアだ。iPhoneなどスマホのカメラで撮影した動画に写っている、ごみの種類や数をクラウドで解析。計測データをマップ情報に照会してヒートマップをつくり、ごみ清掃を効率よく行うためのルート検討など施策支援に役立てられる。ピリカではタカノメのツールを土台とするサービスを全国の自治体、たばこ会社などにカスタマイズして提供している。

当初は “徒歩版” として人が歩きながら実施する動画撮影調査が中心だったが、iPhoneなどスマホを自動車のダッシュボードに装着して同じ解析調査ができる “自動車版” も今年の6月から導入する。採用を決定した、全国のごみ収集運搬に関わる地方自治体や企業による調査も同時期からスタートする。

自動車版のタカノメ。清掃活動に充実する車両のダッシュボードに装着して、走行しながら街中のごみをサーチできる

流出ごみの「元」をたどってごみを減らす

河川や海に流出したごみの場合、水面に光が反射することから、スマホのカメラとアプリによる調査が困難になる。そこでピリカは独自に専用のハードウェア「アルバトロス」を開発した。

最初はECサイトで販売されているパーツを購入して手組みで調査機器を試作した。やがてツールも世代を重ねて進化を遂げて、今では正確なデータを効率よく収集できるようになったという。

独自に改良を重ねて使いやすさを磨いてきたという「アルバトロス」

従来は大型の船で網を引いてごみを回収、調査する手法しかなかったため、河川上流での調査が難しかった。ピリカが開発した小型の調査ツールにより情報の質を上げることができるようになったと小嶌氏は説く。

各所に流出している「ごみの種類」を特定できれば、そもそもごみを出さないようにする解決策が効率よく導き出せるはずだ。ピリカは東京工業大学、東京理科大学、およびプラスチックの成形加工会社と連携して、調査により回収した細かなプラスチックの破片を解析。流出製品の種類を特定する活動にも力を入れている。

企業や大学と連携して、流出するごみの「元」を割り出す活動にも力を入れている

この調査から、例えば稲作に使われるコーティング肥料のプラスチックごみが水田から流出していたり、人工芝の破片がすり切れて風に舞い、河川などに流出していることなど「経路」が追跡できたという。原因が導き出せれば、対策も講じることができるようになる。それぞれの企業や団体はごみの量を減らしたり、あるいは出さないようにするための対策にも乗り出した。

小嶌氏は今後、ピリカのアプリについてはグローバル展開を加速させる考えだ。既に日本語/英語/中国語/タイ語の4カ国にインターフェース対応を完了しており、今年度中にはスペイン語もサポートする。

世界中の国や企業、自治体が対策を迫られている環境対策の一助になりたいと小嶌氏は熱く語る。ピリカが目指す先は、ごみ問題を根本的に解決することだ。小嶌氏は「2040年までにごみの流出と回収の量を逆転させる」ことを目標に掲げている。

いま加速度的に進む環境汚染の問題に気づきを得て、誰もが実践できる “ごみ拾い” という日常の行為から解決に向けた一歩が踏み出せるピリカのアプリに、これからますます注目が集まりそうだ。

アースデイの期間中、Apple Payによる売上を寄付

アップルは2022年4月22日までの期間中、オンラインのApple.com、Apple Storeアプリケーション、またはApple Storeの店舗で来客がApple Payを使って購入した品物の売り上げについて、支払い1件につき1ドルを世界自然保護基金(WWF)に寄付することを発表した。

Apple Storeのスタッフがアースデイの期間中、身に着けているストラップには、アップルが2030年までの目標として宣言した「サプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成」の文言が刻まれている

またアップルの各コンテンツサービスではアースデイに関連する特集を企画している。

Apple Musicでは地球や環境をテーマにした楽曲をセレクト。英国の音楽プラットフォームサービスであるPlatoon、バードウォッチング団体のFlock Togetherによる独占配信もドルビーアトモスによる空間オーディオの新コンテンツに加わる。Apple Booksでは「今できること、始めよう」と題して環境問題の理解を深める電子書籍を紹介する。Apple TVでは「私たちの手で変わる未来」というテーマの元に作品を厳選して届ける。4月19日以降順次公開されるコンテンツの詳細は各サービスを参照してほしい。

Apple Store表参道の大型メインビジョンではアースデイ期間中、アップルが取り組む様々な環境対策について紹介している。詳細はアップルのWebサイトまで

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