【連載】角田郁雄のオーディオSUPREME
【レビュー】感性に訴えるCHORD「DAVE」のサウンド。独自技術とその効果を分析する
■独創的なデジタル処理部。WTAフィルターとパルスアレーDACの仕組み
「人はなぜ、ハイビット・ハイサンプリングの音(今で言うハイレゾ)が、CDよりも良いというのであろうか。30kHz以上を録音できるマイクもないのに」。「確かにCDの音は硬くて平面的だが、DACを進化させればこんな音は出ないはず」。
DAC開発者であるロバート・ワッツ氏は考えた。そして、音響心理学に基づいて、DACチップの性能を超えるディスクリートDACの開発に乗り出した。ジョン・フランクス社長と親交を深め、1995年にFPGAを搭載する「DAC64」をCHORDから登場させた。
DAC64の大きな特徴は、一般のDACチップが4倍から16倍のオーバーサンプリング・デジタルフィルターを構成するのに対して、2000倍以上のオーバーサンプリングを実行する点だ。8倍程度のオーバーサンプリングでは、デジタル独特の“ギザギザ”の階段波形となり、可聴帯域外にノイズを追いやることはできても、音の滑らかさ、弱音や空間の再現性が高まらないと考えた。そこで2000倍以上のオーバーサンプリングを行い、デジタル上で“ギザギザ”が見えないくらい滑らかな波形にして、さらに高域ノイズを激減させる独自のノイズシェーパーも開発した。
このプロセスが、ワッツ氏が開発したWTAフィルターの概要だ。精密抵抗を並べたディスクリート構成のパルスアレイDACと組み合わせて、ハイレゾ音源はもちろんのこと、44.1kHz/16bitのCDであっても、空間性に溢れた滑らかな音、そして格別に豊富な倍音と極めて高い弱音の再現性を実現したのである。
そしてDAVEでは、ザイリンクス社の「Spartan-6 XC6SLX75」という、桁外れの容量と演算速度を実現するFPGAを搭載した。ワッツ氏は、音の立ち上がりであるトランジェントと信号の瞬間的な変化、すなわち過渡信号のタイミングが重要と考えたのだ。なぜなら、オリジナルのアナログ信号と、デジタル信号にするためにサンプリングした波形が違うからだ。これを同等の波形にするためには、超高速の2048倍という高いオーバーサンプリングが不可欠と考えた。今回のFPGAではその理想が叶い、より理想的なアルゴリズムが投入でき、従来の2μsから88ns(ナノセカンド)という超高速演算が可能もなった。以下に、カタログに記載されていないDAVEのデジタル処理の概要を説明しよう。
44.1kHz/24bitのデジタルデータを入力すると、まず、WTAフィルター1のFIRフィルターで16倍のオーバーサンプリングが実行され、次のWTAフィルター2のFIRフィルターでさらに16倍され、デジタルボリューム処理も行われる。つまり、16×16の256倍のFIRフィルターを搭載する、164,000タップのWTAフィルターを構成している。これは166個のDSPが並列駆動する規模である。
その信号は、PCMの場合、さらに次段のインターポレーション・フィルター(波形の補間フィルター)で8倍される。ここまでに16×16×8で、2048倍のオーバーサンプリングが実行され、デジタル上で滑らかな波形となる(結果として、90.31MHz/24bitにオーバーサンプリングされるが、実際はデジタルボリュームがあるので、ビット損失をなくすために32bit以上の高次bitに変換されている可能性があるが、その詳細は非公開だ)。
さらに高域ノイズを可聴帯域外に追いやるアルゴリズムを駆使した17次ノイズシェーパー処理部が続く。最後に16bit〜32bitデータやDSDデータは、5bit化され、ホット・コールドで各10個の精密抵抗(DAVEでは、1chあたり16個から20個に拡張された)を使用した電圧動作のパルスアレイDACでD/A変換され、2次というシンプルで、軽いローパスフィルターを経由して、アナログ出力される仕組みだ。
なお、パルスアレイDACに入力する前に5bit化するのは、DSDとPCMの特性を両立するためだろうと私は推察する(最新の32bit型DACチップでも、5〜6bit化を行っているようだ)。このパルスアレイDACはマルチビット型に見えるが、1bit DACの特性に近づけた動作をするとのこと。またマスタークロックには104MHzの高精度、低位相ノイズの水晶発振器が1基のみ使われ、FPGA内部のデジタルPLLで、入力されるサンプリング周波数に適合する周波数を生成して、そのクロックに同期させる仕組みだ。これらに加えて、実際には非公開のPCMとDSDフィルター処理などのプロセスがある。また今回の17次ノイズシェーパーでは、音場の奥行きを格段に拡張し、超微細信号を完全再生できたとのことだ。
「人はなぜ、ハイビット・ハイサンプリングの音(今で言うハイレゾ)が、CDよりも良いというのであろうか。30kHz以上を録音できるマイクもないのに」。「確かにCDの音は硬くて平面的だが、DACを進化させればこんな音は出ないはず」。
DAC開発者であるロバート・ワッツ氏は考えた。そして、音響心理学に基づいて、DACチップの性能を超えるディスクリートDACの開発に乗り出した。ジョン・フランクス社長と親交を深め、1995年にFPGAを搭載する「DAC64」をCHORDから登場させた。
DAC64の大きな特徴は、一般のDACチップが4倍から16倍のオーバーサンプリング・デジタルフィルターを構成するのに対して、2000倍以上のオーバーサンプリングを実行する点だ。8倍程度のオーバーサンプリングでは、デジタル独特の“ギザギザ”の階段波形となり、可聴帯域外にノイズを追いやることはできても、音の滑らかさ、弱音や空間の再現性が高まらないと考えた。そこで2000倍以上のオーバーサンプリングを行い、デジタル上で“ギザギザ”が見えないくらい滑らかな波形にして、さらに高域ノイズを激減させる独自のノイズシェーパーも開発した。
このプロセスが、ワッツ氏が開発したWTAフィルターの概要だ。精密抵抗を並べたディスクリート構成のパルスアレイDACと組み合わせて、ハイレゾ音源はもちろんのこと、44.1kHz/16bitのCDであっても、空間性に溢れた滑らかな音、そして格別に豊富な倍音と極めて高い弱音の再現性を実現したのである。
そしてDAVEでは、ザイリンクス社の「Spartan-6 XC6SLX75」という、桁外れの容量と演算速度を実現するFPGAを搭載した。ワッツ氏は、音の立ち上がりであるトランジェントと信号の瞬間的な変化、すなわち過渡信号のタイミングが重要と考えたのだ。なぜなら、オリジナルのアナログ信号と、デジタル信号にするためにサンプリングした波形が違うからだ。これを同等の波形にするためには、超高速の2048倍という高いオーバーサンプリングが不可欠と考えた。今回のFPGAではその理想が叶い、より理想的なアルゴリズムが投入でき、従来の2μsから88ns(ナノセカンド)という超高速演算が可能もなった。以下に、カタログに記載されていないDAVEのデジタル処理の概要を説明しよう。
44.1kHz/24bitのデジタルデータを入力すると、まず、WTAフィルター1のFIRフィルターで16倍のオーバーサンプリングが実行され、次のWTAフィルター2のFIRフィルターでさらに16倍され、デジタルボリューム処理も行われる。つまり、16×16の256倍のFIRフィルターを搭載する、164,000タップのWTAフィルターを構成している。これは166個のDSPが並列駆動する規模である。
その信号は、PCMの場合、さらに次段のインターポレーション・フィルター(波形の補間フィルター)で8倍される。ここまでに16×16×8で、2048倍のオーバーサンプリングが実行され、デジタル上で滑らかな波形となる(結果として、90.31MHz/24bitにオーバーサンプリングされるが、実際はデジタルボリュームがあるので、ビット損失をなくすために32bit以上の高次bitに変換されている可能性があるが、その詳細は非公開だ)。
さらに高域ノイズを可聴帯域外に追いやるアルゴリズムを駆使した17次ノイズシェーパー処理部が続く。最後に16bit〜32bitデータやDSDデータは、5bit化され、ホット・コールドで各10個の精密抵抗(DAVEでは、1chあたり16個から20個に拡張された)を使用した電圧動作のパルスアレイDACでD/A変換され、2次というシンプルで、軽いローパスフィルターを経由して、アナログ出力される仕組みだ。
なお、パルスアレイDACに入力する前に5bit化するのは、DSDとPCMの特性を両立するためだろうと私は推察する(最新の32bit型DACチップでも、5〜6bit化を行っているようだ)。このパルスアレイDACはマルチビット型に見えるが、1bit DACの特性に近づけた動作をするとのこと。またマスタークロックには104MHzの高精度、低位相ノイズの水晶発振器が1基のみ使われ、FPGA内部のデジタルPLLで、入力されるサンプリング周波数に適合する周波数を生成して、そのクロックに同期させる仕組みだ。これらに加えて、実際には非公開のPCMとDSDフィルター処理などのプロセスがある。また今回の17次ノイズシェーパーでは、音場の奥行きを格段に拡張し、超微細信号を完全再生できたとのことだ。