[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第152回】そして次の10年へ。銘機10proの“正式後継者” JH Audio「TriFi」レビュー
■TriFiの音質をチェック! そして、この先10年も
ではその「理想」と「十年」を感じるべく音質チェック開始!同社と協力関係にあるAstell&Kern「AK320」をプレーヤーとしてみた。またこちらもお借りしたTriple.Fi 10の音も事前に確認。
結論から言うと「十年一昔とはよく言ったものだ…」という圧倒的な進化を実感できる出来栄え!
Q-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」の冒頭、すっと速いブレスだけで、声のよさを感じられた。小松未可子さんの声のよさとこのイヤホンの声のよさ、どちらもだ。このブレスは速く鋭いブレスだが、しかし例えば誰かにパンチしながら「ハッ!」っと吐き出すブレスではなく、自分を確かめるために吸い込む、速いけれど深呼吸のようなブレス。小松未可子さんの息のニュアンスでのその表現、そして歌詞の内容から、僕にはそう感じられる。
なのでそこは、当たりの強い、攻撃的なブレスには聴こえてほしくない。自分の内に向けた、自分を踏み出させるための深呼吸。このモデルはそのニュアンスを期待通りに引き出してくれる。
たかが一瞬のブレス。しかしそのたかが一瞬を深く再現できるということはボーカル描写は全編見事!ということだ。やくしまるえつこさんや花澤香菜さんが刺さりやすい成分もあえて乗せて歌っている曲だと、その特徴的な成分は少しチリチリすることはある。しかし基本的には、ややソフトタッチにほぐしつつもシャープさを殺してしまうことはない、絶妙のボーカル、絶妙の高域描写だと思う。自身の好みやよく聴く曲、プレーヤー等との相性でチリチリが特に気になる場合、そこはリケーブルで対処しやすい部分なので、それも考慮に入れるとよいだろう。
そして様々な曲で「Triple.Fi 10」からの進化を最も感じられたのは中低域の明瞭さや速さ。
「Triple.Fi 10」だと特にベースやバスドラムなどセンター定位の低音楽器の音像のブレが気になり、その定位の不明瞭さのせいか、それらのアタックや実在感が不足したり不安定と感じたりする。ここについてはこのモデルの形状の独特さ、それによる装着のしにくさ、毎回一定の装着状態を得ることの難しさ、左右一定に揃えるのにも一苦労、といった要素も絡んできているかもしれない。
対して十年後はそこも完璧だ。まず装着は、先ほど触れたノズルの長さもあって、安定したひとつのポジションに自然と収まる。ここでの誤差、不安定さは出ないだろう。そして「Freqphase」技術も搭載されている。
それらのおかげか、バスドラムやベースの定位、音像の明確さは見事なものだ。このモデルは低域はややウォーム系で量感も豊かなタイプ。その音調でありつつ定位や音像、音のキレも高めている。そこには大きな進化を感じる。
そして低音楽器が明確になれば、それらと重なる他のパートの明確さも向上する。例えばセンター定位で重なるベースとボーカル。ベースの明瞭度が高まったことボーカルもそれにマスキングされてしまうことが少なくなり、どちらもがよりクリアに届くようになっている。
それらの進化の成果としてこのモデルは、「5万円とか6万円あたりのもう少し現実的な価格帯、敷居の低さという意味でカスタムではなくユニバーサル」の基準となり得る、普遍的な完成度を備えている。
しかもその普遍的な完成度に、充実した良質低音というこのモデルならではの個性も上乗せ。
完成度+個性。それは銘機と呼ばれ定番となるために必要な条件と言えるだろう。そしてこのモデルはそれを高度に満たしている。これは銘機誕生、新たな定番か!?
…のだがこのモデル、日本限定1,000機のみという限定生産の記念モデルなのだ。も…もったいない!マザーオブパールの装飾を変更するなどしてもう少しお安くしたレギュラーモデルなど、ぜひ検討してほしいところだ。
あとハービーさん。次の十年後も楽しみにしています!
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら