【特別企画】評論家・大橋伸太郎が製品の魅力に迫る
立体音響の裾野を拡げる中堅AVアンプの実力機 − オンキヨー「TX-RZ810」をVGP審査員が実力チェック
また、その高音質設計を支えるべく、パワーアンプブロックには耐熱性を高めた黒塗装ヒートシンクを新たに採用。カスタムメイドEI型大型電源トランスや、大容量コンデンサーなどこだわりのパーツが惜しみなく搭載されている。
また、位相ズレを防ぐ「ノンフェーズシフト」設計も盛り込まれた。これは音が減衰を始めるポイントをリスニングレベル周波数より高い位置に押し上げることで、位相ズレを回避し、音のフォーカス感を高める技術で、同社のアンプ設計思想である「ダイナミックオーディオアンプ」思想の根本を支える技術の一つである。
そして電気回路上では D/A変換時のパルスノイズ発生を回避するフィルター技術VLSC(Vector Linear Shaping Circuity)にも注目したい。VLSCは、同社独自のフィルタリング回路で、D/A変換時に信号を再構築し、原音を損なわない音楽信号をアンプ増幅部に送り出す技術で、本機は7ch全てのチャンネルに適用されている。
■イネーブルドSPの実力を最大限に引き出す注目の新機能
一方、本機がオブジェクトオーディオ対応の第2世代目たる所以は、本機がドルビーアトモスを導入したユーザーのソリューション(設置状況)や、インユース(使用実態)のフィードバックをしっかりと反映した最初の製品であるという点だ。その証左は、本機から初めて搭載された「Accureflex」に如実に表れている。
ドルビーアトモス導入時の最大のネックは、天井スピーカーの設置であることは言わずもがなであり、イネーブルドスピーカーを使用することで、そのネックを回避しているユーザーも少なくない。しかしイネーブルドスピーカーは天井の反射音を利用するがゆえ、反射する帯域の音(主に高音)とイネーブルドスピーカーから直接聴こえる帯域の音(主に低音)の位相差により、頭上定位がぼやけてしまうという課題があった。
「Accureflex」は、その位相差を解消し、オブジェクトオーディオに相応しい明確な定位を実現する画期的な提案である。これは本機の機能上の目玉に止まらず、今期AVアンプ分野の注目技術と言っていいだろう。
その他、機能面ではAKM(旭化成エレクトロニクス)製の32bitDACチップを搭載し、最新スペックのハイレゾ音源に対応したことも大きい。しかもDSDはネイティブ再生である。ただしデジタル入力が背面のUSB端子とLAN端子それぞれ一系統に限定されるのは、使い勝手の面からいささか残念だ。
一方、映像に関しては、HDCP2.2への対応、HDRとBT.2020を含む4K映像信号のパススルー、超解像4Kアップスケーリング機能を搭載するなど、来るべき4K映像時代に求められる条件を全てクリアし万全の体制だ。
■移動音の描写が俊敏で軽快。感度の高いビビットな音場表現
さて、そのサウンドだが、オンキヨーのAVアンプといえば、躍動的な明るい音質、スピード感、そして広々とした空間再現に特長があり、ファンが譲れないのもそこであろう。結論から先に言うと、本機のサウンドは、それらに精密感が加わったという印象である。