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接続するDACの実力を究極的なレベルで引き出す

エソテリック「N-03T」レビュー。デジタル音源の送り出しに特化したネットワークトランスポート

公開日 2018/11/28 06:45 逆木 一
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N-03Tのオーディオ機器としての最大の特徴は、何といっても内部スペースの三分の二以上を占めるという“電源部”だろう。ネットワークモジュールとデジタル処理部それぞれに大容量トロイダルトランスを搭載し、さらにネットワークモジュールからはDCコンバーターを排除して全てをリニア電源とした。純粋なネットワークトランスポートとして、ここまで強力な電源部を搭載した製品というのは、すでに生産完了したスフォルツァート「DST-01」以外で筆者には思い当たらない。

N-03Tの内部。2つの独立した大容量トロイダルトランスを搭載、贅沢なパーツを投入したリニア電源がデジタル音源の送り出しに大きく寄与している

筐体構造も堅牢極まるもので、重厚なアルミエンクロージャーや3点ピンポイントフットの採用など、同社ならではの音質対策が徹底されている。底板は二層構造で、電源トランスは5mm鋼板、オーディオ基板は2mm鋼板に設置することで相互干渉を低減。それぞれの層に精密なスリット加工を施すことで、さらなる振動のコントロールを実現している。

このように圧倒的な物量を投入したN‐03Tの設計には、長らくセパレートCDシステムを手掛けてきたエソテリックならではのこだわりが活かされているという。すなわち、「DACをひたすらD/A変換に専念させる」ためには、トランスポートにも一切の妥協が許されないという意思の具現化である。

ただ、N-03Tはとことん音質にこだわった製品であると同時に、ネットワークトランスポートの機能面においても最先端を行くということも紹介しておきたい。OpenHomeに対応し、純正アプリ「ESOTERIC Sound Stream」による操作は快適だ。また今後のアップデートによる対応も含むが、TIDAL/Qobuz/Spotifyに対応し、Roon Readyにも対応するなど、各種ストリーミングサービスも活用可能。ネットワーク再生が可能な音源のスペックが、USB出力でPCM384kHz/32bit、DSD 11.2MHzまで強化されたことも重要だ。

N-03Tのリアパネル。デジタル出力はUSBの他、RCA(同軸デジタル)端子、XLR端子を装備。ネットワーク端子の他にストレージ接続用のUSB-A端子も備え、USBメモリー等を装着すればミュージックサーバーとして利用できる。10MHzの外部クロック入力も搭載

下手に「プレーヤー」に手を出した挙句、劣悪な操作性しか実現できず、かえってユーザーに不利益になってしまうケースもある中で、N-03Tを含むエソテリックのネットワークプレーヤーのユーザビリティの高さは際立っていると言える。製品が「音楽再生機器」として万全に機能することを保証するエソテリックの姿勢には、素直な称賛を送りたい。

ESOTERIC Sound Streamのセットアップ画面。N-03Tと操作端末を同一ネットワーク下に置き、「Music Player」にN-03Tを選択すれば良い

コントロールアプリには操作性の高いESOTERIC Sound Streamを採用。タグ情報を活用し、アルバムアートワークもスムーズに表示してくれる

楽曲本来の姿を鮮明に描き出し、ただ音楽の存在を感じさせてくれる

試聴は筆者所有のスフォルツァート「DSP-Dorado」と組み合わせ、USB-DACとして使う形で行った。出てきた音を聴いた瞬間、唖然とした。以前N‐01を聴いた際に非常に印象的だった音の強烈な実体感と、体を撫でて吹き抜けるような爽やかな空気感が、いともたやすく両立されていたからだ。

いかに膨大な音の重ね合わせも解きほぐす解像感、音楽の表情を克明に描き出す情報量、一切詰まった印象を抱かせない空間の広がり、目を見張る一音一音の鮮やかさ、揺るぎない低音の安定感などなど…これら全ての要素が相まった、「生命力みなぎる音」だ。N-03Tは再生音に何らかの色や傾向をつけ加えることなく、ひたすら楽曲本来の姿を鮮明に描き出す。ただ、音楽の存在のみを感じさせる、妥協なき音質追求の果てに到達した、「一線を超えた音」である。

筆者の愛する音楽の数々が、かつてない生き生きとした姿で解き放たれ、心を揺さぶる。N-03TとDSP‐Doradoの組み合わせで聴いたあらゆる曲で、心から満ち足りた音楽体験を味わうことができた。オーディオ趣味を続ける中、さまざまな機器を聴いていると、「自分はこんな音が聴きたくてオーディオをやっていたのか」と思える音に出会うことがある。このように思えるシステムとの出会いは本当に貴重だ。N-03Tでは、まさにそんな体験をもたらしてくれた。

それ自体でプレーヤーとして機能するDSP‐DoradoをUSB-DACとして使い、N-03Tと組み合わせると凄まじい音質向上が感じられたというのは、ユーザーとして少々複雑な気分にもなるのだが、事実は事実として認めねばなるまい。それだけ、N-03Tがトランスポートとして、DSP-Doradoの「DAC」としての実力を引き出したということなのだから。



N-03Tは決して安価な製品ではない。組み合わせるDACのグレードを考えれば、一体型プレーヤーのN-01も当然視野に入ってくる。それでも、N-03Tの「接続するDACの実力を究極的なレベルで引き出す」という美点は輝きを失わない。

すでにハイエンドなDACを所有するユーザーも、すでにPCやミュージックサーバーをトランスポートに使っているユーザーも、さらなる音質向上を求めるのなら、ぜひN-03Tを試してみて欲しい。長きにわたってセパレートシステムを作り続けてきたエソテリックがネットワークトランスポートを送り出した理由を、N-03Tがその音で雄弁に語ってくれる。

(逆木 一)


本記事は季刊・Net Audio vol.30 SUMMER号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。

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