ES9038PROを搭載したフラグシップDAC
「正しい」「間違っている」を瞬時に判断できるDAC。MYTEK「Manhattan DAC II」導入の理由
例えばPCM再生では、サンプリングレートが96kHz、192kHzと上がっていくほど、帯域バランスが腰高に感じられることがある。ソース起因の場合もあるが、少なくともManhattan DACやBrooklyn DACが帯域バランスを崩してしまうようなことはない。
同じことはPCMとDSDの比較においても言える。両フォーマットのキャラクターの違いは明快に描き分けつつも、根幹となる部分はMYTEKトーンで統一されているのだ。先ほどのDSDの音がナヨナヨしていないという話は、まさにこの部分に当たる。
筆者はこれまで数々のマスタリングスタジオにお邪魔して、実際にその場で製作された音源をいくつも聴いてきた。この経験が私にとっての「原音」なのだが、Manhattan DACを導入して以来、自宅で同じ音源を聴いても、サウンドイメージに違和感を抱いたことが一度も無いのである。この良い意味で“超・没個性”なMYTEKトーンこそ、常に普遍的なサウンドが求められるスタジオ機器を長年製作してきた、同社の技術力の賜物だと言えよう。
伝え聞くところによると、MYTEK社の創設者であり開発者のミーハウ・ユーレビッチは、ESS社のDACチップの使いこなしに非常に長けた人物だという。そのことがよく分かるのがManhattan DAC開発時のエピソードだ。ミーハウは当時の最新チップであった「ES9018」ではなく、敢えて1世代前の「ES9016」をManhattan DACに採用したのである。「9018と9016には大した性能差はない。それならば使い慣れた9016の方が優れた特性を引き出せる」と彼は言ったのだとか。何という職人気質。
■Manhattan DAC IIへと進化して、桁違いに鮮明な音に
そんなManhattan DACが2にアップグレードされるという情報が飛び込んできたのは、ミュンヘンで開催されていたHIGH END 2016の真っ最中だった。あのES9018を拒んだミーハウが、最新のフラッグシップチップである「ES9038PRO」の性能に惚れ込み、採用を即決したというのだ。それならば私も即決である。
その後、チップの出荷の遅れなどで、アップグレードサービスを受けるまでに1年ほどかかったが、初めて音出しをした瞬間のことは今も脳裏に焼き付いている。視覚的に例えると、これまでの音が地上の天文台から見た宇宙の様子ならば、2はハッブル宇宙望遠鏡が捉えた桁違いに鮮明な宇宙の真の姿であった。星の数=音の数だと思っていただきたい。
ES9038PROの採用はManhattan DACの性能を飛躍的にアップさせたが、その一方で帯域バランスは引き続き「ピラミッド型」のままだ。敢えてピラミッド型と表現したのは巷のDACと比較するためで、私に言わせればこれが本来あるべき姿=フラットバランスである。中でもManhattanは、同社のBrooklyn DACに較べて、ローエンド方向への伸びが一段も二段も深い。これは紛れもなくアナログ回路とデジタル回路それぞれに用意されたトロイダルコア電源や、前方にズラッと並んだ大容量コンデンサー群といった物量投入の成果だろう。2ではここにスピードとダイナミズムも加わって、まさに鬼に金棒だ。