PRヴィンテージ真空管の使いこなしに注目
トリプルアンプが音楽を朗らかに鳴らす “フラグシップモデルの兄弟機” 。「A&ultima SP3000T」レビュー
まず2本の真空管を抱え込むようなシリコンダンパーで覆い、両端から空中へ吊るすように配置。真空管から伸びるリード線にもシリコンチューブを装着し、リード線から伝わる衝撃も低減した。
さらにフレキシブルモジュール基板を介し、もう1つシリコン製モジュールケースでこの構造体を覆い、真空管からの1次衝撃を吸収するようになっている。こうした厳重なカバーにより、軽微な衝撃や振動が発生した場合でもノイズを最小限抑えることができるという。
電磁的なシールドも十分に検討されている他、JAN6418そのものの発熱も抑えられており、様々なマイナス要因を解消。デリケートなヴィンテージ管であっても現代的なツールとして十分に活用できる下地を完璧に構築している。
SP3000Tでは、TUBEアンプモードやHYBRIDアンプモード時にJAN6418のプレート電圧を3段階切り替えられる真空管電流オプションを用意。これにより増幅率を変えることができ、音質の変化を楽しめる。このような真空管駆動時には筐体背面に設けられた窓から内部のJAN6418モジュールが見えるLED補助点灯機能も設けた。またHYBRIDアンプモードでは、OPアンプ寄りかTUBEアンプ寄りかの5段階調整も可能であり、好みに応じた音質調整をより細やかに行える点もユーザーライクといえよう。
これらの切り替え機能は主要なオーディオ回路を一体化したAstell&Kern独自のサウンドソリューション「TERATON ALPHA」によって統合されており、効率的な電源管理とノイズの抑制、歪みを抑えた増幅を行うことで、原音に忠実なサウンド再生を実現。
DAC部は、AK4191EQとAK4499EX間でデジタル/アナログ間の処理を完全に分離し、各々の干渉を抑えてノイズを低減しているが、アナログ部でもOPアンプとTUBEアンプの信号経路を分離することで音の分離向上を果たしている。加えてオーディオブロックには電磁波の影響を抑える高純度銀を塗布したシールド缶を装着。物理的にもデジタル部と分離させ、DAC部のS/Nの高さをより引き立たせている。
ボディは堅牢なステンレス316L製で、その上に導電性の高い純度99.9%の純銀メッキを採用。加えて純銀メッキの硫化防止のため、特殊多層コーティングを施している。アナログ出力端子は3.5mmアンバランス出力に加え、バランス出力は2.5mmと4.4mmの2系統を装備。各々出力電圧調整が可能なライン出力モードへの切り替えも可能だ。新たに真空管回路を加えてはいるが、重量はSP3000より10g軽い483gである。
SoCはSP3000と同じオクタコアCPUを内包するクアルコム製「Snapdragon 6125」を搭載。内蔵充電池も同じ5050mAhのリチウムポリマーバッテリーを内蔵する。AKM製サンプルレートコンバーター「AK4137EQ」を活用したデジタルオーディオリマスター(DAR)機能も継承しており、リアルタイムで最大PCM 384kHz、DSD 11.2MHzへのアップサンプリング再生も可能だ。
仕様面でSP3000と異なる点としては、Bluetooth接続機能でLDACやaptX HDに加え、LHDC、AACコーデックへの対応が可能となった。またGUIに3種類のVUメーター表示機能がAstell&Kernとして初めて搭載されたこともトピックだろう。
■「SP3000T」試聴。演奏空間を鮮明に、華やかに描き出す
試聴にはビクターのカナル型イヤホン「HA-FW10000」と、アコースティックリヴァイブ製リケーブル「REC-absolute-FM」(MMCX - 4.4mm)を用い、バランス駆動での確認を行った。
まず参考程度にSP3000とも聴き比べてみたが、SP3000は1つ1つの楽器が奏でる音の存在感が高く、音像の定位やその周囲の空気感を克明にトレースし、非常に濃密な印象を受ける。いうなればステージ直近の位置で聴いているような感触だ。モニターライクな傾向といってもいいかもしれない。
これに対しSP3000Tはもう少し音像から距離を置き、サウンドステージを俯瞰しているような、ある意味冷静な捉え方となり、オーディオ的なリスニングポジションで聴くかの如く、親しみやすい音調で聴かせてくれる。