PRヴィンテージ真空管の使いこなしに注目
トリプルアンプが音楽を朗らかに鳴らす “フラグシップモデルの兄弟機” 。「A&ultima SP3000T」レビュー
トリプルアンプシステムのOPアンプモードは、硬質で密度の締まったスマートなサウンド傾向。TUBEアンプモードはピアノやシンバルなどの響きに輝きがあり、アタックに適度な硬さを持たせつつも、声や弦楽器の艶も両立。低域方向は伸び良くふわっと広がる耳馴染み良いバランスだ。
真空管電流オプション(Tube Current)はHigh/Mid/Lowの3段階から選択でき、その増減によって音色もエッジの利いた傾向から柔らかさを感じる傾向まで幅がある。試聴ではMidを選んだが、いわゆる “真空管らしい” と形容される温かみのある音調だけではない、輪郭感を明瞭に描く清涼な澄んだサウンドまで楽しむことができる、嬉しい機能といえるだろう。
そしてHYBRIDアンプモードはそれぞれの中間といった印象で、5段階の内、1〜3までは低域のコシが太く、どっしりとして雄大な方向性、4〜5に移ると高域のクリアさ、輝き感が増し、弦楽器やボーカルの潤いも豊かに感じられるようになる。試聴でもこのHYBRIDアンプモードを選択した。
クラシックの飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』より「第一楽章」(96kHz/24bit)は、管弦楽器の潤いある旋律がハリ良く浮き上がるが、その輪郭はカッチリとしており、余韻もクリアに描写。ローエンドも締まり良く、音場の見通しも深い。ハーモニーの透明感も好印象であった。
DSDのジャズ音源『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』より「届かない恋」(2.8MHz)ではホーンセクションの各パートをスマートに描き分け、艶やかに旋律を引き立てている。空間表現性も高く、上下方向の音伸びも自然に感じられた。シンバルやピアノの響きも分離良く、厚みも適度に持たせている。ウッドベースやキックドラムの描写も締まり良くまとめ、ニュアンスを細やかに描き出す。
同じくDSDのハイレート、11.2MHz音源であるSuara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源も聴いてみたが、ウェットで艶やかなボーカルは口元の色っぽさ、ボディの引き締まった描写となる。ピアノのハーモニクスは階調細やかで、余韻も深い。低域方向の響きも引き締め解像感高く表現。リバーブの深い響きはDSDならではの空間表現性が活きる、滑らかな収束である。アコースティックギターの弦は太く、胴鳴りも豊か。倍音の煌びやかさもあり、爪弾きのアタックもクリアに浮き立っている。
ロックはTOTO『TAMBU』「Gift Of Faith」(192kHz/24bit)ではファットな大口径キックドラムのエアー感もニュアンス良くふわりと表現し、フラッシーなエレキギターのピッキングもキレ良くクリアに表現。ボーカルの口元はシャープに描き、リバーブの余韻の収束も早くすっきりとしている。ベースの逞しさ、沈み込みの良さも十分だが、旋律そのものはクリアで、階調性も良い。シンバルの響きも爽やかで、適度な厚みも感じられる。
TRUE「ReCoda」は管楽器パートのハリ鮮やかさ、ストリングスのしなやかな旋律が華やぎを生んでいる。快活で前方に生き生きと浮き立つボーカルの鮮度感、潤いある描写も印象的で、ビブラートもきめ細やかにトレース。息継ぎのニュアンスを含め、爽やかに情景を映し出す。これに対しリッチで力強いベースラインの深みがバランス良く調和し、ドライブ感のあるサウンドとしている。
一方、しっとりとした曲調の丁「呼び声」では、ハープやギターの粒立ちの良さ、ストリングスの流麗さが耳馴染み良く、倍音の煌びやかさがアクセントとなって、ボーカルのシャープなエッジ感と対等に融合。重層的な音作りを分析的に聴くがごとく、細部のレイヤーも緻密に表現している。ベースの深く伸びる旋律やキックドラムの響きも分離良く描き、ドラマティックで雄大なサウンドだ。
SP3000Tは現代と過去の技術・デバイスが融合した、これまでのAstell&Kernにはない独特な世界観を体験できるDAPとなっている。そのベースとなるSP3000由来のDAC部の使いこなしやテクノロジーによって、数十年前の真空管を搭載していても、スマートな操作感の中で安定的な動作を確立し、振動などの影響を抑えてストレスなく楽しめるようにする取り組みは賞賛すべきものだ。
SP3000の持つ孤高で緻密なサウンドとは距離を置き、もう少し親身に寄り添ってくれる朗らかさ、馴染みやすさがSP3000Tの持つサウンドのメリットである。予算が許すならSP3000と両方手に入れたいほど、異なる個性と魅力の高さを誇る兄弟機といえるだろう。
(企画協力:アユート)