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ロングインタビュー

マランツのサウンドマネージャー澤田氏“最後の作品”。「HD-AMP1」開発秘話

公開日 2016/01/21 10:18 構成:編集部 小澤貴信
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−− それだけのスペースや物量を使うだけの効果があるということですね。DACに関連したお話として、HD-AMP1は11.2MHz DSDや384kHz/32bit PCMの再生にも対応しました。

澤田氏 11.2MHz DSDや384kHz/32bit PCMの再生を保証させるとなると、DACの選択肢は限られます。従来のTIやシーラス・ロジックのDACでは、こうした高次ハイレゾの再生が保証できません。ただ保証も何も、こうしたDACが作られた当時に11.2MHzなんていうフォーマットはなかったのですから、仕方ないことですが。

ESS製DACの搭載は「あくまでマランツらしいサウンドを実現できたから」と澤田氏は語ってくれた

それはともかく、HD-AMP1でESS製DACを選ぶに至ったのは、デジタルフィルターとI/V回路の2つの要素において、マランツらしさを表現できるからです。単に注目されているという理由で使ったというわけではないことが、おわかりいただけるかと思います。

なぜ、あえて「ES9010K2M」を採用したのか

澤田氏 そういえば、ESS社のDACでも複数のグレードがあります。HD-AMP1で採用した「ES9010K2M」は最上級グレードのものではありませんが、上級グレードのDACも検証した上で、ES9010K2Mの採用を決めたのです。

−− その理由を教えて頂けますか。

澤田氏 理由はいくつかあります。最上位の「ES9018」はマルチチャンネル対応のDACですが、9010K2Mは2チャンネルDACです。他のオーディオメーカーを見渡すと、ESSのマルチチャンネル対応DACをあえてパラレルでステレオ使用する例がありますが、マランツはDACをパラレルで使うことをあまり好みません。なぜなら、DACをパラレルで使うと碌な音がしないというのが、マランツが今までの経験から導き出した答えだからです。

DACをパラレルで使えば、スペック上はS/Nで有利になります。インピーダンスも下がります。しかし、完璧な同期を取ることがまずできないので、必ず音が滲むのです。もう少し丁寧に申し上げましょう。エネルギーや密度でリアリティーを感じる方々は、パラレルにする数を増やしていくと音が濃くなっていくと感じられるようです。マランツは空間再現や定位の正確さを精緻に追求しているので、DACをパラレルで使うと「音が滲む」印象になります。もちろんSA-11S3などではDAC2基によるパラレル使用もテストしましたが、結果は想像通りのものでした。密度やエネルギー感で有利なことは確かですので、どちらをとるかの問題だとは思いますが。

−− ES9010MK2以外のESS製DACもテストされたのでしょうか。

澤田氏 ESSは、ES9010K2Mの他にもより上位のステレオDACをラインナップしていて、スペック的にはそちらの方がよかったので両方テストしました。しかし、より上位のDACの方が結果は良くなかったのです。

−− 「結果が良くなかった」というのは音質的に、という意味ですか。

澤田氏 Hi-Fi的にはよかったのですが、HD-AMP1にとっては良くなかったのです。セットとの相性ですね。上位のDACでは、どうもトゥーマッチな音になってしまいました。エネルギーは充ち満ちてくるけど処理しきれないというか、収まりが悪いというか。情報量は溢れんばかりだけれども、膨張し過ぎで、さて見通しが悪いなと。どう整理をつけていいかわからないという音でした。

一方でES9010K2Mは、スペックは上位モデルに及びませんが、HD-AMP1のサイズや性格にぴったり合ったのです。それから、これはDACのせいだけとは言えないのですが、独自デジタルフィルターを入れ込むと、上位のDACではいまひとつな音になってしまいました。一方でES9010K2Mは、同じフィルターでも収まりがよかったのです。単純に、より上位のDACが良いということでもなくて、最適なDACを選ぶ上では様々なバランスが重要になります。

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