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「アイマスのハイレゾは勇気のある音作り」

【連続インタビュー(下)】「アイドルマスター」最初期からのマスタリングエンジニアが語るハイレゾの魅力

公開日 2017/05/10 10:00 編集部:押野 由宇
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▼マスタリングには決まった手順がないから、エンジニアの違いが表れる

−−マスタリングというものは、一体どういった作業になるのでしょうか?

佐藤:制作の最終工程で、製造の最初の工程となるのがマスタリングと言われています。つまりこれ以上は動かせないという音源に仕上げて、製造に必要なプレス用のマスターを作るわけです。

−−いわゆるマスター音源を制作するわけですね。

佐藤:マスタリングは常に人間と部屋がセットなので、いつも同じ環境で、同じ音量で聴いて正確にモニタリングすることで、何が足りないのかが分かるんです。そこを補正するのが一般的なマスタリングの作業内容になります。それに加えて、アルバムならレベルや音圧、音色に統一感を持たせて、曲が変わるごとにボリュームを上げ下げせずに聴けるよう仕上げます。アイドルマスターの作品は本当に多ジャンルにわたるので、クラシカルなら生音の弦の響き、ロックならドラムサウンド、打ち込み系ならデジタルな立ち上がりの速いアタック感など、それぞれジャンルによる音の質感もとても重要で大切にしています。

−−先ほど、皆さんマスタリングに立ち会うというお話がありましたが、仕上げの最終的な判断は立ち会った人が行う?

佐藤:もちろん、それが全てですね。最初の頃は作曲した方が立ち会っていて、その次はサウンドチームの代表の方が来ていて、最近はプロデューサーの柏谷が仕切るのが一番多いですね。立ち会う人と一緒に、作って聴いての繰り返しです。

マスタリングの工程は作っては聴いての繰り返しになるという

−−そうなると、アイドルマスター作品に共通したディレクションというより、楽曲ごとにこうしたい、こうして欲しい、という流れになるのでしょうか?

佐藤:そうですね。それが面白いと思いますし、揃えてしまうとデメリットが多いと思います。皆さん、作りたいものをバッチリ持っていますので、それに応えられればいいなと。

−−具体的には、どういう指示があるんですか?

佐藤:真ん中に固まり過ぎているので広げて欲しいとか、歌が出すぎているから引っ込めて欲しいとか、音圧そのままで広がりが欲しいとか。特に、歌の聴こえ方を重視されることが多いでしょうか。でも、歌が聴こえやすくなったなら、なにか他の楽器が聴こえづらくなったということなので、その調整の連続ですね。

−−柏谷プロデューサーも、マスタリングは「何を選択して何を落とすかという作業」と仰っていましたが、本当にシビアな作業だと感じます。

佐藤:コンプレッサーでもリミッターでも、本当にわずかな変化で大きく聴こえ方が変わります。コンプレッサーも含めてイコライザー的な要素を利用して、歌に焦点が合うようなセッティングに持っていく。けれど、その手法には何をどう使えば良い、というものがありません。この前こうしたら良かった、という方法が、別のものに流用できるということはまったくないんです。

−−マスタリングには、黄金パターンのようにこれだと当てはめられる方程式がないんですね。

佐藤:だからこそ、マスタリングエンジニアによって違いが出るということにもなります。使っている機材やマスタリングを行う部屋もそれぞれですし、エンジニアごとに基準がありますから。まず基準があって、そこからのアクションになります。その基準が変わってしまったら、何を聴いているか分からなくなってしまって、間違った判断をしてしまうことになります。

−−佐藤さんにとっては、この部屋の音が基準になるわけですね。日本コロムビアは赤坂から虎ノ門にスタジオを移していますが、前のスタジオと同じ音になるように部屋を設計したのでしょうか?

佐藤さんがマスタリングを行う日本コロムビア内のスタジオ

佐藤:それができないんですよね。部屋とモニターのセッティングというのは本当に戦いで、前のスタジオの時のスピーカーを持ち込んでいますが、同じ音は絶対出ないです。特に狭い部屋で大きなスピーカーというのは、非常に難しいですね。

−−オーディオでも、部屋の重要性はよく話題になります。

佐藤:部屋を含めての音なので、その癖も含めて判断する必要があります。この部屋も中央と後ろで低音の聴こえ方が違うので、立ち会う人に「ここで聴いてください。その場所ではジャッジしないでください」ということもあります。例えば少し後ろの方で聴いてジャッジされた言葉どおりにアクションしてしまうと、実際の仕上がりは想定と違うものができてしまうわけです。どれだけ部屋で格好いい響きが得られても、それは音源には含まれないものですからね。逆にリスナーの方たちは、反射を利用したり吸音してみたり、部屋を含めて音を作る楽しみがあると思います。

−−部屋だけでなく、ケーブルなどにもこだわりが?

佐藤:やっぱりケーブルや電源といったものでも、音は変わりますよね。ただ、そういう部分もありますが、先程の部屋の響きと同じで、その多くの音の変化は音源に入らないということを、マスタリングでは意識しています。

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