「アナログに迫るデジタル再生」
驚異の100万タップをいかに実現させたのか ー CHORD「Blu MKII」の詳細を開発陣が語る
■DAVEではあえて実現されなかった100万タップ。ノイズ対策がカギ
ーー かつてFPGAが可能とする膨大な演算を、巨大な都市に例えて説明いただきました。そのような処理能力を備えるFPGAであっても、ギリギリまで性能を引き出さないと、100万タップという数字の実現は困難なのでしょうか。
ワッツ氏 メモリーにも限界はありますし、これまでのアクセス方法だとメモリーの75%しか活用できていなかったのです。そこで、これまではメモリーとDSPを1対1でやり取りさせていたのを、発想を転換して、メモリーから8個のDSPへ同時にアクセスするという手法を確立したのです。もちろんFPGA自体も、より強力なものが必要となりました。さらに、このような強力なFPGAの処理には電源もパワフルである必要があり、レギュレーターの数を従来の6基から12基へと倍増させました。
ジョン・フランクス氏(以下・フランクス氏) なぜDAVEでは100万タップを実現できなかったのかという声もいただきましたが、その理由のひとつがこの電源です。これだけ強力な電源となると、当然ノイズも大きくなり、D/A変換に悪影響を与えてしまいます。そこで、100万タップを実現するM-ScalerをDACと別筐体のBlu MkIIに内蔵して、さらにはDACとはガルバニックアイソレーションで完全に絶縁することで、膨大な処理を伴うアップサンプリングとノイズの影響の排除を両立させたのです。
■単なるアップサンプリングではなく、タイミング精度を向上させる
ーー M-Scalerについて、もう少し詳しく教えていただけないでしょうか。
ワッツ氏 M-Scalerを我々がなぜ“アップサンプラー”と呼ばないのかというと、ここで行っていることは単にサンプリング周波数を引き上げることではないからです。映像における超解像処理を、音声領域で行っていると考えていただくとわかりやすいでしょう。
具体的には、M-Scalerの処理によって細部の情報を引き出すことはもちろん、オーディオ再生におけるタイミング精度をさらに高めることができるのです。タイミング精度にまで着目したアップサンプリング処理というのは、私が知る限りではこれまでは存在しませんでした。こうしたアップサンプリングを実現するには膨大なタップ数が必要になるため、不可能だったのです。
ーー タイミング精度の向上がオーディオ再生にどのような効果を及ぼすのでしょうか。
ワッツ氏 CDは16bitのデータを持っていますが、従来の方法では16bit分の精度を引き出すことができていなかったのです。一般的なDACでは精度が低いため、CDが本来備える音楽情報とはほど遠い再生しかできませんでした。それがM-Scalerによって、16bitデータを本来の精度で再生することが可能となり、非常に自然な音を再現できるようになったのです。
これはひとつの目安ですが、一般的なDACではCDの16ビットのうち8ビット分程度の精度しか引き出すことができていませんでした。8bitの場合、タイミングの誤差は約0.1%の範囲です。これがM-Scalerでは16bit相当の精度を引き出すことができ、その誤差は約0.00003%になります。誤差をここまでの範囲におさめて、はじめて本来のトランジェントが再現できるのです。