【一条真人の体当たり実験室】高速無線LAN「11n」でハイビジョン映像は快適に再生できるか?
最近のビデオカメラはAVCHDビデオカメラのヒットなどにより、ハイビジョンタイプが主流になってきた。現時点で最速な無線LAN規格「IEEE802.11n ドラフト2.0」は、理論値の最大速度で300Mbpsにもなる。今回は、この11n ドラフト2.0通信を使い、ネットワークメディアプレイヤーでハイビジョンビデオカメラ映像が快適に再生できるか、を検証してみた。
■ビットレートが高いハイビジョン映像
ハイビジョンビデオカメラで撮影した映像は美しいのだが、その代償として、きわめてデータ量が大きくなってしまう。AVCHDの映像ビットレートはビデオカメラによるが、パナソニックの場合、フルHD録画のHGモードでは12.9Mbpsにもなる。通常のアナログDVDレコーダーなどでの標準画質のビットレートが4〜5Mbpsであることを考えれば、どれだけ大きなデータかわかるだろう。
これだけのデータを転送するには、現在一般的な100BASEなどの有線LAN接続なら難しくないが、無線LANの場合、現時点で主流の11g(規格公称値54Mbps)では実速度が条件がよくて30Mbps程度なので、ギリギリ再生可能な気もする。しかし、規格速度300MbpsにもなるIEEE802.11n ドラフト2.0なら、ハイビジョン映像でも余裕で再生できるのではないか、と予想される。
■11nの実転送速度を測定
今回は、この11nでハイビジョンビデオカメラ映像をスムーズに再生できるかを検証するためにバッファローのIEEE802.11n ドラフト2.0対応無線LANルータ「WZR2-G300N」と、同じくIEEE802.11n ドラフト2.0無線LAN対応のメディアプレイヤー「LT-H90WN」(関連ページ)を使ってテストをした。
このLT-H90WNはAVCHD形式のデコードに対応しているため、転送はメディアのビットレートそのままで行われる。つまり、先の例に出したパナソニックのビデオカメラでHGモードで撮影したフルHD映像のビットレートは12.9Mbpsなので、ルータ←→プレイヤー間の転送は12.9Mbpsそのままになる。
また、LT-H90WNはメディアサーバーソフトとしてポピュラーなDiXiMメディアサーバーなどではなく、独自開発のバッファローメディアサーバーというものが使われている。
WZR2-G300NとLT-H90WNを接続して試して見る前に、まずは同一室内の2メートルほど離れた位置で、PCを使ってWZR2の転送速度を計測してみた。これはリンクシアターには転送速度を表示する機能がないので、実際にどの程度の速度で通信が行われているかわからないため、転送速度の見当をつけるためだ。なお、LT-H90WNはIEEE802.11n ドラフト2.0規格に対応しているが、仕様上、その最大リンク速度は270Mbpsとなる。
計測にはnetperfというソフトを使っている。10回程度計測した平均では40Mbps程度となった。これは11g規格と比較すれば速いが、11nとしては思ったほど速くはない。試しに「転送速度計測」というオンラインソフトで転送速度を測ってみると、51Mbpsを少し越えた程度だ。この数値はメーカー公称の同一室内実速度80Mbps以上と比較して大きく落ちるし、70Mbps以上出るというユーザーの話をよく聞く。
テストした部屋は通信の妨害となる電磁波を放つデジタルデバイスが多い特異な条件にあるので、一般的な部屋であれば、より速い速度が出るのではないかと思う。
●サーバPCスペック
CPU:アスロン64X2 3800+
メモリ:2GB
HDD:SATA250GB
OS:WinXP Home/Vista Ultimate
●クライアントPCスペック
CPU:Core2Duo
メモリ:1GB
HDD:120GB
OS:WinXP Home
無線LANクライアント:バッファローWLI-UC-G300N
■無線LAN接続でHD映像がスムーズに再生できない!
この状態でリンクシアターで無線LAN接続してみると、なんとAVCHDのハイビジョン映像がスムーズに再生できなかった。再生テストに使った映像は前述のパナソニックのAVCHDビデオカメラで撮影したフルHD(12.9Mbps)映像なのだが、ややコマ落ちが発生してしまうのだ。PC間の通信で40〜50Mbps程度の速度が出ていたため、12.9Mbps程度の映像のストリーミング再生は楽勝だと思っていたのだが、意外な結果となった。
■メディアサーバーソフトのトランスコード処理を観察する
転送速度とパフォーマンスをタスクマネージャで監視して、無線LAN通信時の状況をより細かく分析してみた。AVCHDの転送時のネットワークでは、ビットレートである12.9Mbpsとはほぼ同じストリームが流れている。このときのCPU負荷はほとんどない。つまり、まったく変換せずにそのまま転送しているのである。これはリンクシアター自体がAVCHDのデコードに対応しているが故にできることである。
たとえば、これがクライアント側がMPEG2にしか対応しない場合、サーバー側はMPEG2形式に変換して転送する必要があり、より多くの帯域を必要とすることになるだろう。
スムーズに再生できない理由には2つの原因が考えられる。1つは通信がスムーズに行われていないということ、そして、もう1つはリンクシアター自体のAVCHD形式のデコード能力が不足しているという可能性だ。AVCHDの再生は重い処理なので、ハードウェア的にできないという可能性も考えられる。
そのため有線LANで接続して再生してみた。果たして、有線LAN接続ではスムーズに再生することができた。やはり、原因は無線LAN通信にあるようだ。有線LANの通信では、ストリーミング再生などの安定した通信には、ビットレートの2倍以上の最大転送速度が必要だと言われるが、無線LAN通信の場合は、安定した通信には有線LANの場合以上の倍数の最大通信速度が必要なことが推定される。
■高いハードウェア性能をベースにし、今後の熟成に期待
今回はWZR2-G300NとLT-H90WNを使ったテストで、IEEE802.11n ドラフト2.0無線LAN通信ではAVCHDのハイビジョン映像がスムーズには再生できないという残念な結果となった。今回の原因は転送速度不足と考えられ、より通信速度の高い環境であれば、スムーズに再生することが考えられる。この通信速度に関しては、今回のテスト環境が一般的な環境以上に電磁波ノイズの多い環境であるため、速度が出なかったという可能性が高い。一般的な環境であれば、より高速な通信が可能であり、スムーズな再生ができることだろう。
さて、LT-H90WNはハイビジョン対応のネットワークメディアプレイヤーとして注目の製品と言えるが、注文をつけたい部分がないわけではない。1つはその付属するメディアサーバーソフトだ。設定変更が反映されるのに、時間がかかる場合があり、レスポンスに不満な部分がある。そしてもう1つは、難しい問題かも知れないが、なんらかの方法でルータとの無線LAN通信の速度が表示できるようにしてもらいたいということだ。
今回のテストではLT-H90WNがAVCHDを本体でデコードできるなど、高いポテンシャルを持ったネットワークメディアプレイヤーなのが確認できた。今後、ソフト的に熟成していくことで、より優れたネットワークメディアプレイヤーに仕上がっていくことを期待したい。
(一条真人)
執筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。
■ビットレートが高いハイビジョン映像
ハイビジョンビデオカメラで撮影した映像は美しいのだが、その代償として、きわめてデータ量が大きくなってしまう。AVCHDの映像ビットレートはビデオカメラによるが、パナソニックの場合、フルHD録画のHGモードでは12.9Mbpsにもなる。通常のアナログDVDレコーダーなどでの標準画質のビットレートが4〜5Mbpsであることを考えれば、どれだけ大きなデータかわかるだろう。
これだけのデータを転送するには、現在一般的な100BASEなどの有線LAN接続なら難しくないが、無線LANの場合、現時点で主流の11g(規格公称値54Mbps)では実速度が条件がよくて30Mbps程度なので、ギリギリ再生可能な気もする。しかし、規格速度300MbpsにもなるIEEE802.11n ドラフト2.0なら、ハイビジョン映像でも余裕で再生できるのではないか、と予想される。
■11nの実転送速度を測定
今回は、この11nでハイビジョンビデオカメラ映像をスムーズに再生できるかを検証するためにバッファローのIEEE802.11n ドラフト2.0対応無線LANルータ「WZR2-G300N」と、同じくIEEE802.11n ドラフト2.0無線LAN対応のメディアプレイヤー「LT-H90WN」(関連ページ)を使ってテストをした。
このLT-H90WNはAVCHD形式のデコードに対応しているため、転送はメディアのビットレートそのままで行われる。つまり、先の例に出したパナソニックのビデオカメラでHGモードで撮影したフルHD映像のビットレートは12.9Mbpsなので、ルータ←→プレイヤー間の転送は12.9Mbpsそのままになる。
また、LT-H90WNはメディアサーバーソフトとしてポピュラーなDiXiMメディアサーバーなどではなく、独自開発のバッファローメディアサーバーというものが使われている。
WZR2-G300NとLT-H90WNを接続して試して見る前に、まずは同一室内の2メートルほど離れた位置で、PCを使ってWZR2の転送速度を計測してみた。これはリンクシアターには転送速度を表示する機能がないので、実際にどの程度の速度で通信が行われているかわからないため、転送速度の見当をつけるためだ。なお、LT-H90WNはIEEE802.11n ドラフト2.0規格に対応しているが、仕様上、その最大リンク速度は270Mbpsとなる。
計測にはnetperfというソフトを使っている。10回程度計測した平均では40Mbps程度となった。これは11g規格と比較すれば速いが、11nとしては思ったほど速くはない。試しに「転送速度計測」というオンラインソフトで転送速度を測ってみると、51Mbpsを少し越えた程度だ。この数値はメーカー公称の同一室内実速度80Mbps以上と比較して大きく落ちるし、70Mbps以上出るというユーザーの話をよく聞く。
テストした部屋は通信の妨害となる電磁波を放つデジタルデバイスが多い特異な条件にあるので、一般的な部屋であれば、より速い速度が出るのではないかと思う。
●サーバPCスペック
CPU:アスロン64X2 3800+
メモリ:2GB
HDD:SATA250GB
OS:WinXP Home/Vista Ultimate
●クライアントPCスペック
CPU:Core2Duo
メモリ:1GB
HDD:120GB
OS:WinXP Home
無線LANクライアント:バッファローWLI-UC-G300N
■無線LAN接続でHD映像がスムーズに再生できない!
この状態でリンクシアターで無線LAN接続してみると、なんとAVCHDのハイビジョン映像がスムーズに再生できなかった。再生テストに使った映像は前述のパナソニックのAVCHDビデオカメラで撮影したフルHD(12.9Mbps)映像なのだが、ややコマ落ちが発生してしまうのだ。PC間の通信で40〜50Mbps程度の速度が出ていたため、12.9Mbps程度の映像のストリーミング再生は楽勝だと思っていたのだが、意外な結果となった。
■メディアサーバーソフトのトランスコード処理を観察する
転送速度とパフォーマンスをタスクマネージャで監視して、無線LAN通信時の状況をより細かく分析してみた。AVCHDの転送時のネットワークでは、ビットレートである12.9Mbpsとはほぼ同じストリームが流れている。このときのCPU負荷はほとんどない。つまり、まったく変換せずにそのまま転送しているのである。これはリンクシアター自体がAVCHDのデコードに対応しているが故にできることである。
たとえば、これがクライアント側がMPEG2にしか対応しない場合、サーバー側はMPEG2形式に変換して転送する必要があり、より多くの帯域を必要とすることになるだろう。
スムーズに再生できない理由には2つの原因が考えられる。1つは通信がスムーズに行われていないということ、そして、もう1つはリンクシアター自体のAVCHD形式のデコード能力が不足しているという可能性だ。AVCHDの再生は重い処理なので、ハードウェア的にできないという可能性も考えられる。
そのため有線LANで接続して再生してみた。果たして、有線LAN接続ではスムーズに再生することができた。やはり、原因は無線LAN通信にあるようだ。有線LANの通信では、ストリーミング再生などの安定した通信には、ビットレートの2倍以上の最大転送速度が必要だと言われるが、無線LAN通信の場合は、安定した通信には有線LANの場合以上の倍数の最大通信速度が必要なことが推定される。
■高いハードウェア性能をベースにし、今後の熟成に期待
今回はWZR2-G300NとLT-H90WNを使ったテストで、IEEE802.11n ドラフト2.0無線LAN通信ではAVCHDのハイビジョン映像がスムーズには再生できないという残念な結果となった。今回の原因は転送速度不足と考えられ、より通信速度の高い環境であれば、スムーズに再生することが考えられる。この通信速度に関しては、今回のテスト環境が一般的な環境以上に電磁波ノイズの多い環境であるため、速度が出なかったという可能性が高い。一般的な環境であれば、より高速な通信が可能であり、スムーズな再生ができることだろう。
さて、LT-H90WNはハイビジョン対応のネットワークメディアプレイヤーとして注目の製品と言えるが、注文をつけたい部分がないわけではない。1つはその付属するメディアサーバーソフトだ。設定変更が反映されるのに、時間がかかる場合があり、レスポンスに不満な部分がある。そしてもう1つは、難しい問題かも知れないが、なんらかの方法でルータとの無線LAN通信の速度が表示できるようにしてもらいたいということだ。
今回のテストではLT-H90WNがAVCHDを本体でデコードできるなど、高いポテンシャルを持ったネットワークメディアプレイヤーなのが確認できた。今後、ソフト的に熟成していくことで、より優れたネットワークメディアプレイヤーに仕上がっていくことを期待したい。
(一条真人)
執筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。