ソニーセミコンダクタ開催メディア向けイベント
スマホや車載用から製造現場まで、私たちの世界を大きく支えるソニーの最先端イメージ&センシング技術を見た
SWIRイメージセンサー
製造現場での検査といった工場などでもセンシング技術が活躍する。まず一つに、SWIR(短波長赤外)光をとらえることができるイメージセンサーが紹介された。すでに量産出荷されており、現場で活躍している。
非可視光のSWIR(短波長赤外)は、人の目で見ることができない1,000から1,700nmの赤外線の一種。製品の品質検査において重要な役割を果たしており、人間の眼では捉えることのできない傷や異物混入などの検査に活用されている。従来のイメージセンサーではシリコンを使用していたが、化合物半導体の “InGaAs” に素材を変更することで、本イメージセンサーではSWIR(短波長赤外)光をとらえることに成功した。
他社でも同様の技術があるが、同社の技術では、画素ピッチを狭くすることで高解像度化を実現しており、さらに表面を薄膜化することで、従来はSWIR(短波長赤外)のみだったところ、可視光も捉えられるようになり、一台で両方の光を捉えられる点が特徴だという。
これにより、SWIRの反射と吸収の違いを利用して、これまでできなかった材料選別や水分検出などに応用できるという。具体的には、工場ラインにおいて材料選別、傷の確認、異物混入などの検査で活用でき、検査工程の自動化につながるとしている。
偏光イメージセンサー
光の三要素のひとつである、光の振動方向の「偏光」を捉えることができるイメージセンサー。フォトダイオード上に4方向(0度/45度/90度/135度)の角度の偏光素子を配置し、4方向の偏光画像の同時取得を実現。360度全てから情報取得が可能で、設定によっては一部の方向のみを取得するといったこもできるという。
これまで明るさ(振幅)と色(波長)は可視化できていたが、偏光の認識も可能にしたという点が大きなポイントだと説明。これにより、可視光のイメージセンサーでは難しい物の形状認識(透明な物体)や、反射除去、歪みや傷の検知をより効果的に実現できるという。たとえばスマホパネル、ガラス製品検査工程であったり、工場などの外観検査工程において活用でき、ガラス検査は自動車工場などですでに活躍しているという。
イベントベースビジョンセンサー(EVS)
EVSは動いているものだけを捉えられるイメージセンサーで、被写体・カメラの動き/変化だけを検出して映し出す技術。各画素の輝度変化を取得し、画素の位置(X/Y座標)と時間の情報と組み合わせて連続的に出力するとのことで、不要な背景情報は出力しないことで、高速に動く被写体であっても、リアルタイムにモニタリングできるという。
明暗の情報出力も可能で、ダイナミックレンジが広い点も特徴だという。EVSセンサーは近々量産出荷予定とのことで、産機カメラ、ロボティクス、セキュリティカメラ、科学計測、ゲームなど幅広いカテゴリー展開が期待される。
デモンストレーションでは、工場の製造ラインでの活用例として、装置故障によるライン停止といった事態を回避すべく、三次元振動モニタリングの様子を見せてくれた。
これまでにも、接触型の振動計やレーザー変位計などを用いた振動計測は可能だったが、あくまで計測点における情報取得のみで、それ以外の部分における振動情報は取得できなかった。本技術を搭載したEVSカメラによるモニタリングでは、対象となる物体と非接触状態で、かつ複数箇所の振動を同時に可視化でき、より精度の高いモニタリングができる。これにより、製造装置の予知保全も高水準に実現するとしている。
大判化・高画質化進むスマホ事業が売上を牽引。車載向けも昨年比で倍に伸長
イベントではソニーセミコンダクタソリューションズ(株)代表取締役社長兼CEOの清水照士氏が登壇し、質疑応答の時間も設けられた。SSS事業の大部分を担い、また先日開催されたグループ全体の事業説明会において清水氏が「スマホのカメラは、2024年には一眼レフを超える」と表現したことでも注目のスマートフォンや、先日ソニーとホンダによる新会社「ソニー・ホンダモビリティ」の設立でも話題のモビリティー事業について、多くの質問が上がった。
「スマホが一眼レフを超える」とした発言については「言葉が足らなかった」とし、「一眼レフはレンズとセンサーの究極性能を求めていくもの、スマートフォンとは方向性が違う。スマートフォンは、レンズとセンサーのほかに、アプリケーションの性能も重要。複眼かつAIを駆使して様々な性能を実現することができる。特徴も出しやすく、一眼レフでは難しいことも実現できる」と語る。
スマホ搭載カメラの大判化については、「1インチが現状ターゲットと思っている」とコメント。スペースの限られたスマートフォン上で、オートフォーカスやブレ対策などの両立は難易度が高いとしつつも、一眼レフなどカメラそのものの特徴もよく理解しているSSSだからこそ、高性能なイメージセンサーの開発ができると説明する。
なお、大きな市場の一つである中国では、以前よりスマホ市場が小さくなってきているという。特にエントリーやミドルクラスは売れ行きが伸び悩んでおり、ハイクラスやフラグシップの需要が高く、「高画質化の流れが強まってきている。高画質の世界はもともと得意な領域だが、さらに価値をつけていかなくてはならない。加えて、あらゆるクラスで良い性能を実現することも大事。先をみて更なる技術開発を進めていく必要がある」と語った。
また、世界的に半導体不足が叫ばれているが、同社の事業にも大きな影響があるという。このたび披露されたテクノロジーの普及や、今後の発展にも、ロジック半導体の安定的な調達が重要となるが、その点について質問が上がると、現況は「実際調達にはとても苦労している。大きな課題の一つであることは確かだ」と回答。具体的な施策は明らかにしていないが、「長期的に考えて、センサーの需要はまだ伸びると考えている。必要な半導体が長期的に確保できるかは課題だが、あらゆる角度から取り組んでいくつもりだ」とした。
車載向けテクノロジーについて、特にソニーとホンダのEV共同開発が進む中でSSSがどういった立ち位置で関わっていくのか?といった質問も。清水氏は「Vision-Sの開発チームができた時から、もちろんサポートはしてきた。ソニー・ホンダモビリティの設立によってさらに協力しやすい環境になった、今後も貢献していきたい」とし、2025年に向けたEV車発売に向けても「協力したかたちになると思う」とコメントした。
一方で「ホンダに限らず、世界中のOEMに技術提供してきており、SSSの特徴を理解してもらっている」とし、グループ内に限らず、幅広いモビリティ事業へ貢献する方向を示した。
なお、先日の事業方針発表で「2025年までに世界シェア60%を目指す」と表明しているが、重点分野はやはり、スマートフォン向け事業だという。車載向け事業も、去年と今年を比べると倍以上の売り上げを記録し、「世界のメジャーなOEMとの良好な関係を築いてきている。さらに売上を増やしていきたい」と、成長事業であることには変わりないが、「モバイル系、インダストリー、コンシューマー、車載とカテゴライズすると、モバイルが断トツ」とのこと。大判化や高画質化の流れもあり、今後も圧倒的な割合を占めると予測している。
また、技術開発や事業展開に重要な人材確保については、国内においては、国や都道府県、大学など官学の動きが活発化しており、「そうした人材を輩出しようという動きが活発化していることを嬉しく思う。企業としては、事業の魅力と将来性をしっかりアピールしていきたい」と語った。また世界的にも、「研究所の開発など、10年先も見据えて進めていきたい」とした。
展示されたテクノロジーの数々を目にして実感するのは、SSSのイメージング&センシングテクノロジーが、私たちの生活する世界のあらゆる部分で活躍しているということ。モノが生まれる製造・生産過程から、製品を購入するリテール現場、そしてスマートフォンのように私たちが実際に手に触れているデバイスに至るまで、様々な面で実は大きく支えられている。
同社は、新しくコーポレートスローガンに「Sense the Wonder」を策定。イメージ動画では「すべての創造や発展の礎となるようなイメージング&センシングテクノロジーにによって、人類の可能性を拡張していく」と表現しているが、本イベントを通して、そうしたSSSが目指す方向性を垣間見ることができたように思う。私たちにとってより便利で、安心で安全な未来の一端を担うセンシング技術の発展に、今後も期待したい。