開発者に訊く“音づくりのコンセプト”
テーマは「Hi-Fiサウンドへの回帰」 − 音に磨きをかけたデノンのAVアンプ「AVR-3313」
2012年7月、デノンは最新のデジタルテクノロジーや機能を満載しつつ、音楽再生の原点に立ち返り、音質にとことんこだわったというミドルクラスのAVアンプ「AVR-3313」をリリースした。そこで今回は、デノンが本機で目指す音の方向性、設計思想を探るべく、音質を統括する(株)ディーアンドエムホールディングス CEエンジニアリング 設計本部 デノン サウンドマネージャーの米田晋氏にインタビューを行った。また製品の視聴を通して、理論と実践の両面からその実力を解剖して行く。
音づくりの大きなテーマは「Hi-Fiサウンドへの回帰」だった
一般的にAVアンプの音は、ハイファイを標榜するピュアオーディオの音に敵わないと言われる事が多い。限られた容積に大量の電気回路を閉じ込めるのだから、考慮すべき点は多い訳だが、特に近年は、音源のハイレゾ化、ネットワーク対応、チャンネル数の増加など、必要とする駆動電力量とノイズの発生源も増える傾向にあり、オーディオ的にはさらに厳しい方向へと向かっている。米田氏は「AVアンプは、そもそもどのように楽しむ機械であるべきなのか、根本的なところを問いかけるべき時に来ている。AVアンプは4K2Kやハイレゾ再生など、オーディオビジュアルの先端機能を取り込んできているが、そのなかで物作りを行う立場としては、“センター”ではなく“アンプ”であり、スピーカーと組み合わせて高音質な音を鳴らす製品であるという価値観を最優先に考えた」と語り、「Hi-Fiサウンドへの回帰」にこだわりを見せる。
確かに、デジタルの領域においては毎年新しい機能が追加される一方、市場のトレンドとしては価格競争も激化している。限られたコストで新しい機能を追加すれば、そのしわ寄せがアナログ部、アンプ部に及ぶのは想像に難くない。さらにその新しい機能がノイズ源となる事を考えると、アナログ部やアンプ部で同等のクオリティを維持したとしても、トータルの音質としては好ましくない方向に向かいがちだ。一般論としては「放っておいたら劣化する」のが、現在のAVアンプが置かれた状況と言えるだろう。
デノンでは、従来モデルからデジタル多機能化時代に即し、音質のケアに努めて来たという。確かに筆者の聴感上も、低域の力感、言い換えるとスピーカーの駆動力の点で、デノンのAVアンプには一目置く部分があった。その傾向はハイエンドからエントリーモデルまで共通しており、流石に老舗といった印象を持っていた。さらに、今夏の新モデルについて米田氏は「特にAVR-3313を含めた3モデルでもう一度Hi-Fiサウンドへの回帰を図るため、プロジェクトにデノンのHi-Fi製品の開発メンバーを起用し、製品としてまとめる段階で、全スタッフで音を追い込んだ」という。
コンテンツ製作者の意図をありのままに再現できるアンプを目指して
デノンが目指す音のコンセプトは明確で、「コンテンツ製作者の意図をありのままに再現する」というものである。低域の力感について、その意図と源泉を米田氏に訊ねたが「確かに低域の力強さは意識しているが、無駄な“色づけ”はしていない。デノンではAVアンプに限らず、ピュアオーディオ系の製品までエネルギーロスを許さないことが音づくりの原点にある」のだという。「元々日本コロムビアを起源として、業務用機器に携わる過程で染みつた考え方なのかもしれない。業務用の再生システムを構築する際は、まずソフトありきであり、コンテンツのエネルギーやパッションを損なわないことが条件になる。ホームエンターテイメントも、製作時の情報量が余すところなくリスナーに伝わって成立するものだと思う。それを実現するための大事な点は、エネルギーのロスを発生させないことである」
米田氏はさらに「サウンドステージが安定しており、ブレがなくエネルギー感のみなぎるようなサウンドであることが大事。また、再生時の補完技術やバーチャル処理技術に頼らず、コンテンツの持つ力をありのままに伝えたい」と考えを述べる。
筆者が感じているデノンのAVアンプの“力感”は、小手先の演出や味付けではなく、不要な要素を取り除き、エネルギーロスを抑えた結果として実現されたものであり、ピュアHi-Fiの思想に通じるものである。AVR-3313でも、今回の“Hi-Fi回帰”では、エネルギーロスを低減するために、基板の信号経路の最短化にも注力したという。このような試みはスペックとして表現し難い部分だが、基板をレイアウトする際には、信号経路が短くなるよう、各部品の配置を徹底的に検討したという。また、筐体内部全体においては、各機能を担う基板どうしの位置関係も、信号経路を最短化することを重視したという。事実、天板パネルを取り外して筐体の内部を見てみると、水平の基板と左右2面に配置された垂直の基板が“箱形”に配置されているのが面白い。
ハイレベルなD/A変換精度へのこだわり
音源のデジタル化、ソースの多様化、ハイレゾ化など、その進化と変化は止まる事を知らない。しかし、人間とのインターフェースはいつの時代もアナログであり、デジタルAV機器においてはD/A変換が肝と言って良いだろう。逆に言えば、ハイレゾ音源もD/Aがダメなら元も子も無い。AVR-3313では、クロックの精度を高めるアプローチに加え、DACの根本にクロックを据えるなど、シンプルかつ効果的な手法を愚直に実践している。今後は「Denon Link HD」で、プレーヤーを含めたシステムトータルでのジッタフリーを突き詰め、さらなるD/A精度の向上を目指すというから楽しみだ。
全チャンネル同一クオリティのマルチサラウンド再生
ステレオの左右のクオリティが整うことが重要なのと同様に、マルチ環境では全てのチャンネルが等価であるべきだ。しかし、同じ回路のアンプを同じ距離の信号経路で接続しても、同じ音色にはならない。米田氏によれば「例えばそれぞれのチャンネルに電源環境等が維持できているかによって、フォーカス感や音場感に差が生まれてくる。グランドの取り方、トランスの置き方やレイアウトを含めて同一条件にするのは難しく、チャンネル数が増えるほどその差は如実に出てくる」という。
理論やスペック、測定では解決できない部分であり、ここで活きるのは職人業とも言える熟練したエンジニアの“勘”である。多チャンネル化するAVアンプでこそ、ノウハウが音の実力、サラウンド感のクオリティの差になって表れる。その点でも、伝統を持つデノンブランドはユーザーの期待に応えてくれるだろう。その成果は、実際の試聴を通して確認したい。
音づくりの大きなテーマは「Hi-Fiサウンドへの回帰」だった
一般的にAVアンプの音は、ハイファイを標榜するピュアオーディオの音に敵わないと言われる事が多い。限られた容積に大量の電気回路を閉じ込めるのだから、考慮すべき点は多い訳だが、特に近年は、音源のハイレゾ化、ネットワーク対応、チャンネル数の増加など、必要とする駆動電力量とノイズの発生源も増える傾向にあり、オーディオ的にはさらに厳しい方向へと向かっている。米田氏は「AVアンプは、そもそもどのように楽しむ機械であるべきなのか、根本的なところを問いかけるべき時に来ている。AVアンプは4K2Kやハイレゾ再生など、オーディオビジュアルの先端機能を取り込んできているが、そのなかで物作りを行う立場としては、“センター”ではなく“アンプ”であり、スピーカーと組み合わせて高音質な音を鳴らす製品であるという価値観を最優先に考えた」と語り、「Hi-Fiサウンドへの回帰」にこだわりを見せる。
確かに、デジタルの領域においては毎年新しい機能が追加される一方、市場のトレンドとしては価格競争も激化している。限られたコストで新しい機能を追加すれば、そのしわ寄せがアナログ部、アンプ部に及ぶのは想像に難くない。さらにその新しい機能がノイズ源となる事を考えると、アナログ部やアンプ部で同等のクオリティを維持したとしても、トータルの音質としては好ましくない方向に向かいがちだ。一般論としては「放っておいたら劣化する」のが、現在のAVアンプが置かれた状況と言えるだろう。
デノンでは、従来モデルからデジタル多機能化時代に即し、音質のケアに努めて来たという。確かに筆者の聴感上も、低域の力感、言い換えるとスピーカーの駆動力の点で、デノンのAVアンプには一目置く部分があった。その傾向はハイエンドからエントリーモデルまで共通しており、流石に老舗といった印象を持っていた。さらに、今夏の新モデルについて米田氏は「特にAVR-3313を含めた3モデルでもう一度Hi-Fiサウンドへの回帰を図るため、プロジェクトにデノンのHi-Fi製品の開発メンバーを起用し、製品としてまとめる段階で、全スタッフで音を追い込んだ」という。
コンテンツ製作者の意図をありのままに再現できるアンプを目指して
デノンが目指す音のコンセプトは明確で、「コンテンツ製作者の意図をありのままに再現する」というものである。低域の力感について、その意図と源泉を米田氏に訊ねたが「確かに低域の力強さは意識しているが、無駄な“色づけ”はしていない。デノンではAVアンプに限らず、ピュアオーディオ系の製品までエネルギーロスを許さないことが音づくりの原点にある」のだという。「元々日本コロムビアを起源として、業務用機器に携わる過程で染みつた考え方なのかもしれない。業務用の再生システムを構築する際は、まずソフトありきであり、コンテンツのエネルギーやパッションを損なわないことが条件になる。ホームエンターテイメントも、製作時の情報量が余すところなくリスナーに伝わって成立するものだと思う。それを実現するための大事な点は、エネルギーのロスを発生させないことである」
米田氏はさらに「サウンドステージが安定しており、ブレがなくエネルギー感のみなぎるようなサウンドであることが大事。また、再生時の補完技術やバーチャル処理技術に頼らず、コンテンツの持つ力をありのままに伝えたい」と考えを述べる。
筆者が感じているデノンのAVアンプの“力感”は、小手先の演出や味付けではなく、不要な要素を取り除き、エネルギーロスを抑えた結果として実現されたものであり、ピュアHi-Fiの思想に通じるものである。AVR-3313でも、今回の“Hi-Fi回帰”では、エネルギーロスを低減するために、基板の信号経路の最短化にも注力したという。このような試みはスペックとして表現し難い部分だが、基板をレイアウトする際には、信号経路が短くなるよう、各部品の配置を徹底的に検討したという。また、筐体内部全体においては、各機能を担う基板どうしの位置関係も、信号経路を最短化することを重視したという。事実、天板パネルを取り外して筐体の内部を見てみると、水平の基板と左右2面に配置された垂直の基板が“箱形”に配置されているのが面白い。
ハイレベルなD/A変換精度へのこだわり
音源のデジタル化、ソースの多様化、ハイレゾ化など、その進化と変化は止まる事を知らない。しかし、人間とのインターフェースはいつの時代もアナログであり、デジタルAV機器においてはD/A変換が肝と言って良いだろう。逆に言えば、ハイレゾ音源もD/Aがダメなら元も子も無い。AVR-3313では、クロックの精度を高めるアプローチに加え、DACの根本にクロックを据えるなど、シンプルかつ効果的な手法を愚直に実践している。今後は「Denon Link HD」で、プレーヤーを含めたシステムトータルでのジッタフリーを突き詰め、さらなるD/A精度の向上を目指すというから楽しみだ。
全チャンネル同一クオリティのマルチサラウンド再生
ステレオの左右のクオリティが整うことが重要なのと同様に、マルチ環境では全てのチャンネルが等価であるべきだ。しかし、同じ回路のアンプを同じ距離の信号経路で接続しても、同じ音色にはならない。米田氏によれば「例えばそれぞれのチャンネルに電源環境等が維持できているかによって、フォーカス感や音場感に差が生まれてくる。グランドの取り方、トランスの置き方やレイアウトを含めて同一条件にするのは難しく、チャンネル数が増えるほどその差は如実に出てくる」という。
理論やスペック、測定では解決できない部分であり、ここで活きるのは職人業とも言える熟練したエンジニアの“勘”である。多チャンネル化するAVアンプでこそ、ノウハウが音の実力、サラウンド感のクオリティの差になって表れる。その点でも、伝統を持つデノンブランドはユーザーの期待に応えてくれるだろう。その成果は、実際の試聴を通して確認したい。
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