[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第18回】6cmの立方体スピーカー、NuForce「Cube」は割り切りの良さが魅力
先日アップルから、大きくモデルチェンジした第7世代iPod nanoが発表されたばかりだが、正直に言って僕は第6世代のiPod nanoは好みではなかった。小さな画面ゆえの情報量の少なさと、ちまちましたタッチ操作にどうもなじめなかったりするのが理由である。なので第1世代iPod nanoに発火の恐れありとのことで交換に出したら、第6世代iPod nanoになって返されてきたときには軽く絶望した(世界の終わりってほどではないけれど)。
しかし、Cube+iPod nanoはいい! 押し入れで眠っていた第6世代iPod nanoが、僕の中ではこのタイミングでまさかの活躍である。無理矢理くっつけているようでもあり、それでいて整合性もあるような、不思議な一体感。極限までにミニマムな音楽システムがここに完成する。個人的に気に入ったので、今回はあえてこの組み合わせで音質チェックをしてみたい。
と、その前にもうひとつ紹介。NuForceからは本機とほぼ同じタイミングで、安価にして高品質なポータブル機器用のケーブルシリーズ「TRANSIENT」も発表されている。実際試してみたら音も良いし、ケーブルの柔軟性やプラグ部のコンパクトさのおかげで取り回しも良い。iPod nano以外のプレーヤーの接続にはこちらがおすすめだ。
ではCube+iPod nanoで試聴してみよう。
■ポータブルスピーカーとして十分な低音再現性
まず音量だが、iPod nanoのボリュームゲージを2/3程度にした状態で試聴に十分な音量を確保できる。ボリュームを最大にすると、鉄筋コンクリート造りにも関わらず隣室の笑い声が聞こえてくる筆者のマンションでは、ちょっと近所迷惑かなという音量が出る。そして最大音量でも音は割れたりしない。音量不足を感じることはないだろう。
低音の具合も、冒頭の例で述べたような不満はちゃんと解消できるレベルに達している。だいたいの曲でベースラインをしっかり聞き取れる。特別に太かったり厚かったりはしないし、音程を特に下げる瞬間には音像が少し薄れたりもする。しかしポータブルスピーカーとしては十分な低音再現性だ。
ではもう少し細かく見ていこう。
エスペランサ・スポルディング「Radio Music Society」の試聴曲冒頭のギターは、僕好みのカッチリとした感触。ここの音色は再生機器によって硬軟が分かれるのだが、本機は「硬」だ。もちろん嫌な硬さではなく、エレクトリックギターらしいパキッとした抜けっぷりが気持ちよい。
シンバルの音色は少しだけ粗い。ここは本来であればもっと優しくしなやかな音色だ。しかしそのおかげで音抜けやスピード感が良いという面もある。ポータブルスピーカーの音作りとしてはこれもアリだろう。対して低音側ではフレットレスのエレクトリックベースの柔軟性が生かされている。アタックも肉感的だ。ドラムスも自然な太さで、古い録音のような暖かみも引き出されている。
ボーカルの感触は、まずは宇多田ヒカル「HEART STATION」でチェック。描写はやや明るく、宇多田さんの声の陰っぽさというかウェットさはちょっと薄れる。しかし声の抜けや太さはまずまずだ。
相対性理論「アワーミュージック」ではボーカルの倍音感をシャープに生かす。スピード感もあるし、こちらはより好感触だ。
尖ったところのある製品ではないのだが、機能性も音もまとめ方がうまい。きっぱりとした割り切りを受け入れて使いこなせば、様々な場面で活躍してくれるだろう。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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