<山本敦のAV進化論 第43回>ハイレゾに迫る音質は本当か
ソニーの“ハイレゾ相当”コーデック「LDAC」の実力とは? 最新ヘッドホン「MDR-1ABT」で検証
ビル・エヴァンス・トリオの「Waltz For Debby」から『Milestones』(192kHz/24bit・FLAC)では、ウッドベースの低域に脚力が増して、スピーディーで緊張感溢れる演奏が楽しめる。ピアノのトーンもしなやかさを増して、ドラムスのスネアは音像のエッジがシャキッとした鋭さを増す。情報量が増えて中高域の密度もぐんと高まるので、演奏がよりダイナミックになってヒートアップしてくるようだ。同じ曲を再生しながらSBCにモードを切り替えると、演奏がか細く痩せた印象に変わってしまうのがよくわかる。
MDR-1ABTはヘッドホン自体のパフォーマンスが高いので、LDACによってもたらされるメリットがはっきりと見えてきて面白い。従来のワイヤレスオーディオ再生では味わえなかった“いい音”がベストコンディションで味わえる組み合わせだと思う。
■ワイヤレス再生の進化を実感。LDACの設定まわりはもっとシンプルになって欲しい
音質向上に明らかな違いが感じられるLDACだが、反面、NW-ZX2ではインターフェースが少し使いにくいように感じられた。
まず標準の音楽再生プレーヤーアプリである「W.ミュージック」インターフェースにLDACの設定が組み込まれていない。LDACの音質設定、あるいはSBCとの切り替えるためのメニューは、本体設定の「Bluetooth設定」まで移動しなければ設定ができないので、音質の違いを聴き比べたい時には面倒な操作が必要になる。
ワイヤレスオーディオ再生中にコーデック設定がLDACなのかSBCなのかを、プレーヤー画面でモニターできる表示も欲しい。現状ではウォークマンに対応機器をペアリングした際、あるいはLDACとSBCを設定メニューから変更した際に、画面の左上に1〜2秒のわずかな一瞬に「LDACで接続しました」と表示されるだけである。特にLDACの方は3つの音質設定も含めて、文字やアイコン等でアプリの画面上にもステータスが表示されれば、万一音切れ等が発生した際に原因が突き止めやすくなると思う。
せっかくセンセーショナルなほど効果の差が味わえるLDACなので、もう少し目立つように機能をアピールしてもいいのではないかと感じた。ファームウェア更新等で改善されることを願いたい。
LDACによる高品位なワイヤレス再生のメリットを享受するためには、送信側と受信側の双方がともにLDACに対応している必要がある。LDAC対応のオーディオ機器は当面、開発元であるソニーの製品が中心になりそうだが、ソニーのオーディオ製品の開発担当者に訊ねたところ、将来はLDACのライセンスを他のパートナーに提供していくことも検討しているという。
ハイレゾに迫る高品位なワイヤレスサウンドが味わえるLDACが登場したことで、現在はBluetoothの便利さを基準に音楽やオーディオ機器を楽しんでいるユーザーが、より“いい音”に出会い興味を深めるきっかけが広がるだろう。今後LDACがどんなかたちで広がっていくのか楽しみだ。