【特別企画】誠実に作った本格イヤホン
実は注目の優秀モデル!エレコムの“ハイレゾ”イヤホン「EHP-CH2000/CH2000S」を聴く
■しっとりとした落ち着きのある音調。誠実に価値を高めたイヤホン
では、いよいよ実際の音の話だ。特徴をまずは短くまとめると「低重心だが低域過多ではなく、高域も派手にせずしっとりとした落ち着きのある音調」といったところだろうか。言ってしまえば際立った個性は主張していない音なのだが、そのバランスを好ましく思う方も多いだろう。
アグレッシブなピアノトリオ作品、上原ひろみさん「ALIVE」ではまずはその低重心さが特に際立つ。多弦ベースの拡張された低音域でのフレーズにも実体的な重みや厚みを持たせ、浮つくことなく地を這うような重量感としてくれる。僕の印象としては、だが、大きな違和感があるほどの重みでもない。作り手側にせよ聴き手側にせよ、好みの範疇に収まる音作りだ。これくらいの重さはあった方がよいという方も多いだろう。
またそのベースは、厚く重くはあるのだが、「音像の体積」のようなものを肥大させてしまうことはなく、ある程度の引き締めを維持したまま音色を充実させてくれている。音色の弾力もよい。総じて実に良質な低音表現だ。高域側ではシンバルもまた良質。前述のように派手系ではなく落ち着いているが、ぼやけているわけでは全くない。鋭さは出さないが、ほどよく薄刃あるいはほどよい厚みで、音色の粒子感やほぐれといった要素を豊かに感じられる。鈴鳴り感について擬音で表すならば、鋭く「シャキーンッ!」ではなく綺麗に「シャリーンッ!」だ(感覚的すぎる表現でアレだがニュアンスとして受け取ってほしい)。ドラムスの太鼓類の抜けも抜けすぎず、しかしこもらず、音色の硬さも硬すぎず、しかし柔らかすぎずと、バランスがよい。
花澤香菜さん「こきゅうとす」でもシンバルのほぐれた美しさを感じられる。ハイハットシンバルでのリズムの刻みの細かな抑揚、それによる曲のスピード感のコントロールもしっかり伝えてくれる。またこの曲ではベル系の音色も多用されているが、そちらも優しい輝きとして表現されて心地よい。ミドルテンポでのベースの重みや弾み具合もよい具合だ。そして肝心の歌声だが、これは実に特に相性がよい。この曲の歌は少し掠れさせた絶妙にハスキーな声色だが、その掠れを強めずにやはりほぐれさせてくれるので、柔らかさ、優しさといった印象が強まる。それでいて掠れをなくしてしまうわけではないので、切なさもしっかり感じられる。
喜多村英梨さん「掌 -show-」は攻撃的シンフォニックメタルといった感じの曲調でヘヴィにしてアグレッシブ、そして音が超密度で詰め込まれている。しっかりとした再生はなかなか難しい曲だ。ギターのエッジ感など曲の鋭さは少し甘くなる。しかし本機は基本的な解像度が確保されているし、低重心だが低音を飽和せないので全体の見通しもよく、情報量は十分に届けてくれる。かなり低い音域で動くバスドラムとベースのコンビネーションを、重みと弾みを備えて躍動させてくれるのもポイントだ。
本格的なイヤホン初製品となれば派手に打ち上げたくなりそうなものだが、エレコムのこのモデルはそちらに走らず、真っ当に堅実にまとめられている。技術面での工夫はもちろんあるのだろうが、それ以前にその判断、その音作りこそがこのモデルの価値を高めた。そう感じさせるイヤホンだ。
(高橋敦)