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Hi-FiクラスのS/Nと情報量をいかにして両立したのか?

マランツの新旗艦AVプリ「AV8802A」を開発拠点・白河で聴いた【連続レポート前編】

公開日 2015/06/26 14:27 山之内 正
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アトモス再生ではスピーカーの位置やch間のつながりを忘れさせてくれる

AV8802Aはドルビーアトモスへの対応を果たしているが、今秋以降、ソフトウェア・アップデートによってDTS:Xへの対応も予定している。今回は天井埋込型トップスピーカーを配置した環境で、ドルビーアトモス仕様の『ゼロ・グラビティ』を視聴した。

開発試聴室の様子。広いスペースにB&WのDiamondシリーズでサラウンドが構築されている

音量をかなり上げて聴いたこともあり、地球に帰還するクライマックスの場面、効果音の移動だけでなく、全方位から音に包まれる感覚を堪能することができた。ドルビーアトモスで再生すると、船内から海中への環境の激変を映像以上に音で雄弁に描写していることがよくわかる。スピーカーの位置やチャンネル間の音のつながりを意識させないほど、効果音と音楽が「面」で迫ってくるのだ。

『インターステラー』は砂嵐に巻き込まれる場面とワームホールを抜ける場面を視聴した。映像にそなわるリアリティが際立つ作品だが、実は音響も圧倒的な情報が入っていて、いろいろな場面で凄まじいまでのサウンドが大きな役割を演じている。ここで挙げた2つの場面はその一例だが、効果音の作り込みの深さ、量感と質感が両立した超低音など、見る者をただ圧倒するだけではない音響の表現力に気付かせてくれる。プリアンプから送り出す音に勢いとスピードが乗っているからこそ、すべてのチャンネルから同時に大音圧を叩き出すパワー感が生まれるのだろう。

AV8802Aの背面(下)とAV8801の背面(上)。AV8802Aでは各チャンネルの出力を一列に配置することで、チャンネルごとの信号経路の差異をより小さくしている

情報量の増大とノイズの低減という相反する要素を11.2chで実現させた

最後にオーケストラの映像ライヴでAV8802Aの音場再現力を確認する。イヴァン・フィッシャー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるベートーヴェンの演奏を5chで再生すると、聴き手を包み込むコンサートホールの空気感がごく自然に感じられることにまず感心した。そして、そのナチュラルな響きがバックグラウンドに存在することで、演奏のうまさやリズムの推進力がいっそう際立つことが肝心な点だ。まったくの無音ではなく、微細な音に反応する余韻のふるまいを正確に再現することで、一つひとつの音に現実感が生まれる。アンプの性能としては、微小信号を忠実に再現することと、ノイズフロアを十分に抑えたS/Nの良さが求められる。

試聴を行いながら意見交換する山之内氏と澤田氏

最初に紹介したように、AV8802AはHi-Fiグレードの製品に匹敵するノイズ対策を行っている。スルーレートを上げることで原信号の情報量が蘇ると、微小情報をノイズに埋もれさせないために優れたS/Nが要求される。情報量の増大とノイズの低減という相反する要素を両立させるためには、Hi-Fi製品の開発手法をAVアンプに投入することが不可欠なのだ。本機の注目すべきポイントは、まさにそこにある。

◇◇◇


後編では、白河工場で全工程が行われているAV8802Aの製造現場を取材した模様をレポートする。最新鋭の工作機械と熟練の手作業による製造工程、そして徹底した品質管理がどのように行われているのかをお伝えしていく。

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