海上忍のラズパイ・オーディオ通信(40)
ラズパイ・オーディオにバーブラウンのDACチップ「PCM51xx」シリーズが適している理由
さらにもう1つ、「デジタルフィルター」がある。PCM5122にはプログラマブルなDSPコアが統合されており、こちらもI2Cでコントロールできる。筆者がプロデュースしたPCM5122搭載のDACボード「DAC 01」では採用していないが、TIが提供する専用ツールを使うと、チップ内部の構成やフィルターの設定を変更できるという。PCM5122の"知られざる力"を発揮できるかもしれず、興味が深まるところだ。
■PCM5122のデジタルフィルターを変更する
そのPCM5122のデジタルフィルターだが、信号を送信する程度で切り替えることができる。微妙なニュアンスの変化ではあるものの、PCM5122のもう一つの貌を知ることができるため、このチップを搭載したDACボードが手もとにある場合はぜひ試していただきたい。
FIR interpolation with de-emphasis |
Low latency IIR with de-emphasis |
Fixed process flow |
High attenuation with de-emphasis |
Ringing-less low latency FIR |
信号を送信するといっても手段はI2Cとなるため、所定の手続きを踏まなければならない。結局のところ利用するシステム(Linuxディストリビューション)次第ではあるが、Raspbian派生のシステムはPCM5122用ドライバーがカーネルにビルトインされているため、それほど手間はかからない。特にMoode Audioの場合、PCM5122のオプションを設定するWEB UIが用意されているので、作業は一瞬で完了する。
VolumioなどWEB UIの用意がないシステムを利用している場合は、SSHでリモートログインし「alsamixer」を実行する。キャラクタベースの画面が現れるので、F6キーを押してサウンドカード(DACボード)を選択、上下のカーソルキーを何度か押してみよう。表1に挙げたデジタルフィルターを選択できるはずだ。
このalsamixerで設定した内容は一時的なもので、設定ファイル(/var/lib/alsa/asound.state)に書き出されるに過ぎない。実際にDACボード/PCM5122へ反映させるには、以下のコマンドを実行しよう。これで、次回の起動以降は新しいデジタルフィルターが適用される。
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$ sudo /usr/sbin/alsactl store
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本稿では仕組みまで説明しないが、PCM5122のデジタルフィルターはデルタシグマ変調の直前にチップ内部で8倍オーバーサンプリング処理を施し、ローパスフィルターの効果を得る。ドライバーに「HifiBerry DAC+(Pro)」を選択した場合、標準的な「FIR interpolation with de-emphasis」が初期値で適用されている。
他のフィルターとの比較だが、「DAC 01」で試した限りでは、「Ringing-less low latency FIR」が音の輪郭が際立つ印象だ。艶と滑らかさではデフォルトの「FIR...」を推すが、一音一音の新鮮さと急峻なレスポンス、音場表現では「Ringing...」が印象に残る。PCM5122を味わい尽くしたいのならば、ぜひ聴き比べていただきたい。