[特別企画]バーチャルサラウンド機能も充実
オンキヨーのTHX準拠AVアンプ「TX-NR696」レビュー。10万円切りでオーディオ性能を磨き上げた自信作
UHD BDプレーヤーにパイオニア「UDP-LX800」を使用し、ドルビーアトモス収録のUHD BD『ボヘミアン・ラプソディ』を再生する。チャプター16、ソロ活動に移行したいフレディ・マーキュリーとクイーンのメンバーが緊張の面持ちで話し合うシーンでは、ノイズフロアの低さが静寂感を演出して、シリアスな雰囲気がビンビンと伝わってくる。センタースピーカーから出るセリフも明瞭で高さが出ていることも特筆点だ。
チャプター23は、本作品のクライマックスとなるライヴ・エイドのステージシーンだが、ここでも本機のスピーカー駆動力が発揮された。ベースやドラムに力があり、クラスを超えた中低域のパワーがある。フロントハイトスピーカーからシャワーのように歓声が降り注ぐ様は必聴で、ドルビーアトモスの魅力全開といったところ。聴感上の情報量が多く、まるで観客数が増えたような印象さえ受ける。
続いて、シアターファンがリファレンスとして愛用する『ダンケルク』ではどうだろうか。前半部で一番の見所となるチャプター1の銃撃シーンでは、その重く瞬発的な銃撃音とその反響音が全方位的に体を包む。前後方向のパースペクティブが良く、画面との空間的なマッチングが抜群だ。
また、電源部の品質が高いためだと思われるが、本モデルは瞬間的な音の立ち上がりに強く、アクションシーンに強い。今回は47インチのTVを左右のスピーカー中央に設置して試聴したのだが、はっきりいうと、完全に音が映像を上回っている。この表現力があればTV環境では十分すぎで、もっと大きな80〜120インチクラスのプロジェクター環境でもまず通用するだろう。
また、『ダンケルク』のサラウンド音声は「DTS-HD Master Audio 5.1」で収録されており、そもそもハイト成分が入っていないのだが、DTS Neural:Xを有効化すればハイト成分が作り出される。実際に聴いてみると、5.1.2のスピーカー構成で上方向から銃撃の反響音が聴こえるようになり、高さ方向の再現性が大きく向上して没入感が後押しされる。
バーチャルサラウンド機能については、「DTS Virtual:X」を使って『ダンケルク』を再生してみた。なお、本作のようなDTS:X収録ではないコンテンツをDTS Virtual:Xで再生する場合、自動で前述のDTS Neural:Xがオンとなり、高さ方向のチャンネルも拡張される。
DTS Virtual:Xの視聴では、設定を変更してフロント2本のみのスピーカーを用いたのだが、まるでサラウンドスピーカーが実際にあるかのように音が回り込む感覚がある。冒頭のチラシが舞うシーンなどでは、高さ方向の音の拡張も実感できた。当然、実際にスピーカーを設置したときのようなダイレクトなリアリティはないものの、事前の予想以上に効果は高かった。
TX-NR696は、真っ正面から音質を上げるという、質実剛健な意を持ったAVアンプである。音像の彫りが深く、1つ1つの音が明瞭で、中低域の瞬発力に長ける。また、各チャンネルの音のつながりも良い。平たく言えば、ソースに含まれる迫力を限られたコストの中で可能な限り再現した音作りがされている。
Ultra HD Blu-ray、Netflixなどの映像配信サービス、そしてDSD 11.2MHzなどのよりレゾリューションの高い音源や、ストリーミングサービス、Bluetoothなどの音楽ソースを良い音で楽しみ尽くしたいと考えた時の“メディアセンター”としての魅力も備えている。現在は手軽なサウンドバーも人気だが、筆者はAVアンプを勧めたい。しっかりしたスピーカーと組み合わせれば、それがフロント2チャンネルだけでも音質の差は歴然としている(ここはハッキリと言いたい)。
また、試聴位置を取り囲むように多くのスピーカーを設置するのは、サラウンド再生の醍醐味でもあるが、一般家庭ではなかなか難しい。そんな場合でも、本機の優秀なバーチャルサラウンド機能により没入感は大きく高まるだろう。
せっかく映画を見るなら良い映像と音で楽しめば感動値は桁違いに上がる。それがAVアンプ導入最大のメリット。なかでも質実剛健という個性を持つ本機は、老舗オンキヨーの底力を感じられる大変クオリティの高い正統派のAVアンプだった。
(土方 久明)