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[PR]エージングや装着感追い込みで印象が変わる

追い込むほどに真価が分かる、ストイックなイヤホン。オーディオテクニカ「ATH-IEX1」レビュー

公開日 2019/11/01 11:29 岩井 喬
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まずお伝えしたいのは、ATH-IEX1のサウンドは「エージング」と「正しい装着の仕方」で印象が変わる、という点だ。

岩井氏は、開封したばかりだと高域のエッジ感が中心のサウンドになりがち、と指摘する

デュアルフェーズ・プッシュプルドライバーはBA型ドライバー以上にエージングが必要な印象であり、開封したばかりでは低域の伸びが今一つ感じにくい、高域のエッジ感が中心のサウンドとなりがちだと感じる。

DAPや音源との相性については、本機は基本的にスマートフォンでも再生できるよう、5Ωという低インピーダンス設計としているため、駆動力の点でDAPとの相性は気にしなくても良いと思われる。しかし音色傾向での組み合わせの好みはこの限りではないので、様々な組み合わせを探究してみるのも良いだろう。

加えて、ATH-IEX1では正しく装着できているかが音質にも影響を及ぼす側面が大きいと感じた。音像のエッジ形成にも繋がるBA型ドライバーがノズル部に配置された構造だということも少なからず影響しているのだろう。

ステムに段差を設け、装着するイヤーピースの深さを調節することで、耳へのフィット感を調整できる構造になっている。付属のイヤーピースとあわせ、最適な装着感を探りたい

そのためイヤーピース位置を2段階調整できるノズル部の機構「2ポジションポスト」や、シリコンタイプ4サイズ/Complyフォーム3サイズが用意されたイヤーピースを使って、最適な装着位置を見つけてほしい。でなければ低域の少ない高域中心の音となるばかりか、音場定位の再現性も損なわれる。

店舗の試聴などで違和感を覚える場合は装着性の問題も大きいと思われるので、イベントなど調整しつつじっくりと試聴できる機会を活用してみてほしい。


透明感ある高域と制動の良い低域が生む鮮度の高いサウンド

まず標準ケーブル・アンバランス接続で試聴した。

3.5mm アンバランスケーブル/4.4mm バランスケーブルが1本ずつ付属し、アンバランス接続またはバランス接続にて使うことができる

そのサウンドだが、十分なエージングを済ませたATH-IEX1は、既にクライマックスと感じるような解像度の高さに加え、制動の良い低域からきめ細やかな高域の透明感まで万全で“もうバランス接続状態で聴いているのか”と錯覚するほどの高鮮度かつレスポンスの良い音だ。量感はあるが凝縮された密度感と、適度な引き締めでキレ味も良い低域の押し出し感は格別で、高域の澄んだ響きを邪魔しない、絶妙なコントロールである。

オーケストラは管弦楽器の立ち上がりもきめ細かく粒立ちの良い旋律として描く。ローエンドはダンピング良くまとめ、奥行きのある音場が展開。解像度も高く、見通しも深い。余韻も澄み切っており、リリースの階調性も優れている。

ジャズピアノは分離良く明瞭なタッチで描かれ、アタックの硬質さが清々しさを生む。リズム隊も引き締め良くアタックの輪郭も鮮やかだ。ホーンセクションもシャープで個々のパートが明確に描かれるが、タンギングテイストも生々しい。ボーカルは口元のハリ感を滑らかかつ爽やかに引き出すとともに、ボディの厚み感も自然に表現。11.2MHz音源では特に声の緻密さ、息継ぎのリアルさも際立ち、リヴァーブのニュアンスも的確につかみ取れる。

ロック音源ではリズム隊の低域表現の階調性、引き締め感が見事で、キックドラムやベースのアタックも適切に描き分けるとともに、スネアの響きのクリアなアタックとボディの厚みが生む落ち着き感をバランス良く両立。シンバルワークの澄み切った響きも付帯感がない。ボーカルもボディを引き締めつつ、ハリ良く潤い感のある口元と、芯のある逞しい音像の存在感を融合させ、生々しく音離れの良い描写としている。声の帯域の描き分けについても特筆すべきものがあり、ボーカル本人のコーラスワークも混濁せず、本来の定位、前後感を持って分離良く描き出す。


厚みとキレを併せ持つ低音表現は、特にEDM系と好相性
 バランス接続では「リアルの極致」とも言える音を聴かせてくれる


またATH-IEX1の真価を発揮する低音域の制動性で注目したいのは、EDM系を含むシンセベースの質感と厚み、その切れ味の良さだ。

ベースの存在感に対し、柔らかく澄んだ声が印象的な井口裕香『HELLO to DREAM』ハイレゾ版では、各パートの分離の良さ、シンセベースの引き締め効果も高く、全体的に見通しの良い清々しいサウンドとなっている。コンプレッションを強くし、ボーカルの張り出しとキレの良さを優先するCD版の良い部分を取り入れたかのような声質の逞しさと輪郭の明確さ、付帯感のない澄んだトーンを持たせつつ、ハイレゾならではのディティールの細やかさ、空間性の広さがそこに加わったような印象だ。

リヴァーブのナチュラルな効果による音離れの良い立体的な音像感も心地良い。シンセベースがぐっと沈み込み、キレ良くグリップ。その制動性の良さは休符部分でより際立つ。スッと収束するリリースの素早さと僅かな静寂のコントラストも素晴らしい。

コネクターはA2DC端子。タッチノイズを低減する耳掛け式。耳にかかる部分はワイヤーを入れず、自重で耳に掛かるようなタイプにしたという

続く#2「We are together!!」はより低域の主張が顕著であり、デュアルフェーズ・プッシュプルドライバーのパッシブラジエーターによる効果が明確にわかる。こちらのベース音は1曲目よりも逞しく、ボーカルなど他パートを包み込むように広がるが、重量感を持たせつつ弾力良く引き締め、音色感もしっかりと描写。シンセサイザーやギターのフレーズも浮き上がり良くクリアで、ボーカルのキレ良くヌケ鮮やかな表現は実に爽やかである。コーラスワークの定位も明快で、付帯感のない澄んだ音場が印象的だ。

さらにダフト・パンクの『Random Access Memories』、1曲目「Give Life Back to Music」でも本モデルならではの低域のパワフルな表現が堪能できる。全体的に低域のエナジーが強い楽曲でもあり、そのコントロールがこの楽曲の肝。歌が始まるAパートの直前まで「フェンダー Rhodes」のようなエレキピアノとベースラインがユニゾンしているが、このベースのアタックがエレキピアノの音色に負けてしまうことが多々ある。しかしATH-IEX1ではきっちりと分離し、ベースのボディのふくよかさもバランス良くセーブ。他のパートの明瞭度も向上している。キックドラムのアタック圧も気持ち良い。

そしてバランス接続に切り替えるとよりメリハリ良くキレ鮮やかでソリッドかつストレートなサウンドに進化。アタック&リリースのレスポンスも良く、余韻の収束も恐ろしく早い。アンバランス駆動でも十分高解像度で、一般的なバランスライクなサウンドであったが、実際のバランス駆動ではより理想的な低域の制動を実現しており、アンバランス接続へ戻してみるといかに低域の輪郭が甘く広がっていたかが分かった。

しかしただタイトできついという方向性ではなく、低域方向にかけてどっしりと安定した土台を作り、高域方向は分離良くシャープな描写となっているので、よりきめ細かく丁寧で密度感もあり、ほのかな声の温もりさえ見えてくる、リアルの極致といえるサウンドとなっている。


時間を掛けて追い込むほどに真価が分かる、ストイックなイヤホンだ

ATH-IEX1は持てるポテンシャルの高さ故、鳴らし込みには時間も、環境も、そして装着性さえ追い込まないと本来の良さが見えてこない、フラグシップならではのストイックなモデルだ。

だからこそ、時間をかけて聴き慣れた音楽を聴き込んでいくと、これまで感じられなかった音楽のつくり、楽曲の構造の深さに気づき、驚きと喜びをもたらしてくれる。ジャンルに偏りなく、どんな音源も忠実に、そして躍動良くドラマティックに描き出してくれる、希少なハイブリッド型コンパクトモデルといえるだろう。



試聴音源
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(96kHz/24bit)

・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜届かない恋(2.8MHz・DSD)

・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜レディ・マドンナ(筆者自身による2.8MHz・DSD録音)

・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)

・Christopher Cross『Another Page』〜「Nature Of The Game」(192kHz/24bit)

・Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源


(協力:オーディオテクニカ)

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