【特別企画】新潟・燕三条の高度な加工技術をオーディオに活用
新アナログブランド「セレニティ」始動!マグネシウムの特性に着目、驚きの制振効果を実感
■テクニクスの最新アナログプレーヤーでも効果をテスト!(炭山)
個人的に、アナログは振動をどう養生するかが大きなポイントだと考えている。それは必ずしも全て抑えてしまうことを正解とするものではない。不要振動を全て抑えるつもりで対策を進めると、ほとんど不可避的に楽音へいくらかのダメージが及び、結果としてS/Nはいいけれどつまらない音、ということになってしまいがちだ。振動というものは、まったく一筋縄でいかないものである。
オーディオの振動対策に用いられる素材として、マグネシウムがある。マグネシウムは金属としては例外的に鳴きにくく、優れた制振性を持つためである。しかし、前述のように一歩進みすぎると、あるいは踏み外すと楽音へ大きな影響を与え、情報量が減ったり音が生気を失ったりする。それを採用各社それぞれのノウハウで飼い馴らしているのが昨今のマグネシウム採用アクセサリー群といってよい。
この度登場したセレニティ・ブランドの製品は、マグネシウムを多用したアナログ・アクセサリー類である。純マグネシウムは酸素と結合しやすく、表面仕上げをしっかり行わないと焼けて穴があいたりしがちの素材なのだが、同社の素材はマグネシウムの「合金」で安定性が高いから、扱いにそれほどの神経質さはないのがありがたい。
福田雅光氏はご自宅のエクスクルーシブP3aを使って評価されているそうだし、私は比較的廉価なプレーヤーを使って聴いてみようと思い立った。同社の井上正栄代表が開発に用いたプレーヤーのひとつとおっしゃっていたテクニクス「SL-1500C」を使って試聴を進める。
ターンテーブルシートは、振動吸収性に優れた特殊な樹脂を2枚のマグネシウム薄板で挟み込んだ格好の製品で、表面の頑丈さに比して持ってみると至って軽量だ。レーベル面は1段、落とし込まれ、外径はレコードとほぼ等しい。
他社のスタビライザー(730g)と組み合わせて音を聴いたが、一聴して「うん?」と首をかしげた。S/Nは素晴らしく、針音らしきものはほぼ消え去り、相当の静寂感から音楽が立ち上がるのだが、録音されたホールが若干狭くなったような、残響時間がわずかに短くなったような感じがあるのだ。オケの楽員はしっかり見えてくるが、少しだけ演奏に元気がなくなり、ボウイングの勢いが削がれてしまったような印象がある。これまでいろいろ体験してきた中で、若干ながら制振を効かせすぎた際に起こる現象だ。
セレニティのマグネシウム合金製スタビライザーは、他社のスタビライザーとほぼ同じ大きさで200gしかない。優れた制振特性を持つシートにあまり重いスタビライザーを併用すると、盤が必要以上に強くシートへ押し付けられてしまう。そのためその優秀さが却って仇となり、楽音まで削ってしまうということにもなりがちだ。
そこで早々にスタビライザーをセレニティ製品に交換すると案の定、前述の “効きすぎ” 症状はきれいさっぱりと消え去った。このスタビライザーはマグネシウム合金の削り出しで、手にしっくりとなじむ逆樽型の形状が素晴らしい。
ここから改めてじっくりと試聴を始めたが、クラシックはやはり十二分のS/Nで、しかしそれでいてオケのスケールや残響の長さ、ホールの空気容量といった表現には一切影響しない。ただノイズフロアが極端に下がり、音楽のみが立ち上がってくるという、これまであまり聴いたことのない静寂さである。
ジャズも印象はほぼ同じで、ピアノとウッドベース、ドラムスというどれも巨大な楽器の音像を明確に定位させつつ、奏者が目配せし合い、微笑み合いながら演奏しているようなグルーヴ感が音に乗る。ポップスは歌姫のシャウトが猛烈なパワフルさで、しかしまったく荒れない。
最後にカートリッジスペーサーも試した。かなり大きな制振効果を効かせ、とりわけS/Nの向上は著しい。今回はアルミのシェルでプラスに働いたが、こちらについても、カートリッジやシェルの素材との相性に配慮したい。
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(提供:ワンロード)
本記事は『季刊・analog vol.76』からの転載です。