PRこれまで以上に高出力、なのに小型軽量も実現
ぶっちぎりの静けさ、ハイパワーDAPの集大成。Astell&Kern「KANN ULTRA」レビュー
単に端子を分けただけではない。ヘッドホン出力は専用ヘッドホンアンプ回路を通して出力、プリ出力は専用プリアンプ回路を通して出力、ライン出力はDACセクションからダイレクトに出力と、出力経路をそれぞれに最適化。あらゆる用途に向けてベストな音質を提供できる設計だ。その最適化には、低歪、低電源ノイズ、効率的電源管理などに秀でる、同社独自の「TERATON ALPHA」テクノロジーが用いられている。
プリ出力とライン出力の仕様や用途を確認しよう。まず、プリアウトモードは本体ボリュームホイールでの出力音量調整が可能。ゲインや後述の出力電圧の設定は不可となる。
このモードは、例えばアンプ内蔵のパワードスピーカーと組み合わせてのシステム構築で活躍するだろう。ボリューム調整機能を持たないパワードモニターに直結する場合は使用必須。ボリューム回路搭載スピーカーとの組み合わせでも、音量調整を本機に任せた方が、音質も音量調整のしやすさも向上する場合がある。
ラインアウトモードは出力音量固定で、出力電圧は4段階に設定変更可能。最も低ノイズなモードなので、本機側での音量調整が必要ない場合はこれを選びたい。ハイエンドなアナログヘッドホンアンプとの組み合わせや、本機とパワードモニターの間に優秀なモニターコントローラーを挟むシステム構成などでは、このモードが基本の選択肢となるだろう。
【音質レビュー】圧巻のS/Nと圧倒的なパワー!楽曲の深い魅力に気づかせてくれる
早速、DAPとしての主役であるヘッドホン出力の実力をチェックしよう。ニュートラルなサウンドのハイエンドイヤホン、qdc「TIGER」と組み合わせて試聴した。
バランス駆動/Midゲインの設定で、Robert Glasper Experiment「Cherish The Day」を聴くと……圧巻のS/Nと圧倒的なパワーのコンビネーションはこれほどのオーディオ体験を生み出すのか!と驚かされた。
S/Nはぶっちぎりに良い。数え切れないほど聴いているこの曲を再生開始するや否や、「この曲の背景の暗さや静かさは本来これほどのものだったのか!」と改めて思い知らされたほどだ。
その深い黒が背景となることで、細やかなシンバルワークのほのかな輝きが立体的に浮かび上がる。背景と音像のコントラストが鮮やかに際立つのだ。エコーやパンなど空間エフェクトを使ったサウンドデザインの鼓動や動きがさらに映えるのも、背景の落ち着きがあってこそ。
そして、その深い黒の底、ローエンドでバスドラムとベースが絡み合うグルーヴの説得力。中高域の音像を前後方向で浮かび上がらせてくれたように、低域の音像は上下方向で沈み込ませてくれるのだが、その沈み込ませっぷりが凄い。鉄球の如き重みで底に沈んだベースとバスドラムが、その深い底で、鉄球の重みを持ったままゴロゴロと蠢く。そんなグルーヴをクリアに届けてくれるのだ。
この音域にまで沈み込ませた音を明瞭に響かせるのは、並大抵ではない。パワフルなだけではなく、その制御力がローエンドまで含む広い帯域に及んでいること。KANN ULTRAの凄さはそこにもある。
最後に、この曲のイントロとアウトロにはフェードイン/アウトが使われているのだが、その美しさも特筆したい。始点および終点となる無音の静けさと、微細な音量にまで込められる確かな存在感。このフェードイン/アウトにこそ、KANN ULTRAのS/Nとパワーの価値が集約されていると言えるかもしれない。
他には、ULTRASONE「Signature PURE」などヘッドホンとの組み合わせも確認したが、そのどれに対しても、各ヘッドホンの美点を引き出し癖は強めずという理想的な駆動を見せてくれた。
「Low」からバランス駆動16Vrmsの「Super」まで、4段階のゲイン設定を使い分ければ、高感度かつ高遮音性なイヤホンでも、ローノイズと音量調整のしやすさを確保でき、ハイパワーを要求するヘッドホンでもパワー不足はない。
結論として本機のサウンドパフォーマンスは、さらにハイエンドなフラグシップ機たちと並べても、好み次第でこちらを選ぶ方もいるだろうと感じさせるレベルだ。サイズもハイエンド機全般の大型化が進んだ現在では突出して大きいというほどではない。
スタンダードなハイエンド機に対するオルタナティブな選択肢として登場したKANNシリーズ。しかし、その集大成である本機は、トリプル出力モードに象徴されるオルタナティブな個性はそのままに、スタンダード機としても強烈な仕上がりに至っている。
(協力:アユート)