祝・リンDS15周年!
【特別対談】哲学者・黒崎政男と山之内 正が語るオーディオの“恍惚” -ジョルディ・サバールに寄せて-
ドイツ哲学・カントの専門家であり、東京女子大学で教鞭を執る哲学者の黒崎政男氏は、昨年夏にリンのフラグシップネットワークプレーヤー、「KLIMAX DSM/3」を自宅に導入した。蓄音器やイコン、彫像など黒崎氏の心を捉えた骨董品が所狭しと並ぶ部屋を、最新鋭のデジタル機器「KLIMAX DSM/3」が豊かな音楽で満たしている。黒崎氏の自宅を、同じくリンを愛用しているオーディオ評論家の山之内 正氏が訪問。リンをテーマにオーディオ談義をするはずが、思わぬところから古楽の話が盛り上がり…。
■リンのDSが登場して今年で15周年
黒崎 本日は拙宅にお越しいただきありがとうございます。
山之内 蓄音器の存在感がすごいですね。
黒崎 蓄音器も8台位ありまして、それについては『季刊・analog誌』で取材を受けたのでそちらをご覧いただくとして、今日のテーマはリンのネットワークプレーヤーですね。
編集部 2022年は、リンのDSシリーズ(注:リンのネットワークプレーヤーのシリーズ名。純粋なプレーヤーであるDSと、アンプ搭載のDSMがあるが、現行モデルはすべてDSMとなっている)の15周年に当たります。今回は、非常に早い時期からリンのDS製品をご自宅に導入されてきました黒崎先生と山之内先生に、リンの魅力について存分に語っていただきたいと思っております。
黒崎 私はこれまでリンのDS製品が何であるかについて、山之内先生の諸記事を読むことでとても学ばせてもらったんです。なので今日は山之内さんとこうして対談できて大変光栄です!
山之内 実は私も1990年代にアスキーに連載されていた黒崎先生の真空管アンプの自作記事を読んでおりまして。なんて面白い人なんだろうと(笑)。
黒崎 ええっ、まさかそんな頃からご存知だったとは(笑)。
山之内 私は2000年にアスキーで『インターネットで変わる音楽産業』っていう本を書きまして、これからはネットに繋いでダウンロードして音楽を聴く時代が来るよって話をしたんです。それから何年かして、リンがDSを発表しました(編集部補足:iPodの発売は2001年。iTunes Storeがスタートしたのは2003年)。
編集部 2007年10月に初代「KLIMAX DS」がグローバルで発表されて、日本では2008年2月にパレスホテルでお披露目会があったそうです。
山之内 当時はみな、これが何をするものか分からなかったんですよ。トレイもないしボタンもスイッチもない。何をしていいかわからない。当時はまだiPhoneもないですから、アプリで操作するということもできなかったし、ハイレゾもストリーミングサービスもまだ簡単に使えるものではありませんでした。
でもあれから15年経って、ようやっとリンが当時から理想としていたネットワークとオーディオの融合というものが理解されるようになってきましたね。
黒崎 そうそう。iPhoneが最初に出たときも、iPodに電話がついた、ってそれどうするの?って思ったみたいにね。それが10年経ったいまや生活の必需品です。山之内さんの記事は、当初からその本質を的確に捉えていたように思っています。DSが発表になって、かなり早い段階でご自宅に導入されたんですよね。
山之内 当時、手元にあるCDがあまりにも増えすぎて収拾がつかなくなってしまって。リッピングしてパソコンにどんどん取り込んで、なんとかスペースを確保したいと考えていたんです。そんなときにDSが出て、リッピングしたCDを聴いてみたら、それまで聴いていたCDプレーヤーと全然違う音がしたんです。その理由について、やはりメカニズムを持っているCDプレーヤーと、ネットワークプレーヤーは本質的な違いがあるんじゃないか、と考えるようになりました。まだハイレゾもほとんど存在しなかった頃で、CDのリッピングデータで聴いていましたね。
■リンのサウンドに驚愕して、オーディオ熱が再燃
編集 黒崎さんはどうしてリンのシステムに出会ったのですか?
黒崎 当初はパソコンに取り込んだ音源を、RMEのDACにつないで再生して、これもなかなかいいじゃないと思っていました。そんなときに、偶然立ち寄った銀座のオーディオショップ、サウンドクリエイトの竹田さんから、パソコンに依存せず、独立してオーディオとして再生できるものがあります、と教えてもらったんです。それが2010年頃の話です。
実は1980年代には、真空管アンプの自作など、かなりオーディオにハマってやり込んでいましたが、CD時代にはいったんお休みをしていたんです。CDは歪もノイズもなくて便利ですごいのですが、逆にまぁまぁの音が簡単に出せるので、オーディオ熱としては冷めてしまったんですね。それから20年ほど空白がありました。ところが2011年にリンのDSに出会ってから、オーディオ熱が再燃して、いまもこうして楽しんでいます。
オーディオって主観的に良い音、好き嫌いというのももちろんありますが、やはり「客観的に良い音」というのもあるように思うようになりました。私はリンの製品についてはいつもそれを感じていて、MAJIK、AKURATE、KLIMAXと価格が上がるごとに、きちんとその価格が音に反映されていると思います。最初にリンのDSを導入したときも、聴き比べの結果これはKLIMAXを買うしかない…!(当時の価格で280万円/税別)となりまして。大変な苦労をして購入したそれをアップグレードしながら使い続けていたわけですが、昨年思い切ってKLIMAX DSM/3を買ってしまいました。
山之内 お値段的にもかなり勇気が必要な製品かと思いますが、決心されたきっかけは何があったのですか?
黒崎 昨年の3月に、深夜にリンのオンライン発表会があって、私はそれをすごく楽しみにしていたんですよ。ワクワクしながら発表を聞いて、でもね、最後に値段を聞いた瞬間(国内価格:4,800,000円/税別)、「あ、これは俺には関係ねーや」って(笑)。
山之内 価格の上がり幅は衝撃的でしたね。
黒崎 関係ねーやとは思ったものの、あくまで参考までにと思ってサウンドクリエイトさんで聴いたらね、やっぱりすごいんですよ。音楽の生命力がすごいというか、さらにスケールが大きくなってダイナミックになって。たとえばビル・エヴァンスだと、一緒に会場の空間にいる感じというか、そういう臨場感と、演奏家の魂が来るように感じたんです。私はSPレコードもたくさんコレクションしているのですが、それに近い、心が伝わってくるような感じがしたのです。
山之内 私も全く同感です。シチュエーションを変えて何度か試聴しましたが、こうも変わるものかなと。演奏の物理的な距離が近くて、空気感も豊かで、心理的な距離も近づいてくる感じがします。
黒崎 音の微細なニュアンスを表現しながら、魂もともにあるというのが非常に難しくて。緻密になればなるほど生命力が下がったり、きれいになってるんだけど分析的になってしまったり。ところがこのKLIMAX DSM/3では、デジタルでここまでエネルギッシュな、生命に満ちた音楽が鳴らせるんだと驚いたんです。
で、その後考えたんです。前回のKLIMAXを手に入れてから、約10年経っているんです。リンのバージョンアップは毎回素晴らしいですが、それでもデジタルで10年持つっていうのはありえない。パソコンもカメラも、そもそも10年も経たずに陳腐化してしまいますよね。SPレコードのような古いものはそれそのものに価値がありますが、デジタルは最新が最高である。といつも考えています。
ただ一方で、罪悪感というか、オーディオはこれでいいのか、という気持ちもありました。音楽を愛するゆえにオーディオを楽しんでいるのに、富裕層の道楽みたいになってしまったんじゃないかって。高くすればするほど高級に見えちゃうでしょ。それはなんだか醜い行為かもしれないって。
山之内 では購入されるまでに、ものすごく悩まれたんですね。
黒崎 そうなんですよ…私には縁遠い世界のように思っていたのですが、これまでリンを大切に使ってきたユーザーには、トレードインのサービスプライスに加えて下取りもしてくれるというお話もあって。それにあと10年使うと考えたら…とか、いろいろ自分に言い訳をして、悩んで悩んで、でも、結局買ってしまいました。
山之内 こうしてご自宅に導入されて、その金額に見合う価値は得られたんじゃないですか?
黒崎 ほんとにね、こう言うとリンを褒め過ぎになっちゃうけど、値段以上っていつも思っています。リンは裏切らないというか、実際に買って、ますます音楽を聴くことが楽しくなっています。
■リンのDSが登場して今年で15周年
黒崎 本日は拙宅にお越しいただきありがとうございます。
山之内 蓄音器の存在感がすごいですね。
黒崎 蓄音器も8台位ありまして、それについては『季刊・analog誌』で取材を受けたのでそちらをご覧いただくとして、今日のテーマはリンのネットワークプレーヤーですね。
編集部 2022年は、リンのDSシリーズ(注:リンのネットワークプレーヤーのシリーズ名。純粋なプレーヤーであるDSと、アンプ搭載のDSMがあるが、現行モデルはすべてDSMとなっている)の15周年に当たります。今回は、非常に早い時期からリンのDS製品をご自宅に導入されてきました黒崎先生と山之内先生に、リンの魅力について存分に語っていただきたいと思っております。
黒崎 私はこれまでリンのDS製品が何であるかについて、山之内先生の諸記事を読むことでとても学ばせてもらったんです。なので今日は山之内さんとこうして対談できて大変光栄です!
山之内 実は私も1990年代にアスキーに連載されていた黒崎先生の真空管アンプの自作記事を読んでおりまして。なんて面白い人なんだろうと(笑)。
黒崎 ええっ、まさかそんな頃からご存知だったとは(笑)。
山之内 私は2000年にアスキーで『インターネットで変わる音楽産業』っていう本を書きまして、これからはネットに繋いでダウンロードして音楽を聴く時代が来るよって話をしたんです。それから何年かして、リンがDSを発表しました(編集部補足:iPodの発売は2001年。iTunes Storeがスタートしたのは2003年)。
編集部 2007年10月に初代「KLIMAX DS」がグローバルで発表されて、日本では2008年2月にパレスホテルでお披露目会があったそうです。
山之内 当時はみな、これが何をするものか分からなかったんですよ。トレイもないしボタンもスイッチもない。何をしていいかわからない。当時はまだiPhoneもないですから、アプリで操作するということもできなかったし、ハイレゾもストリーミングサービスもまだ簡単に使えるものではありませんでした。
でもあれから15年経って、ようやっとリンが当時から理想としていたネットワークとオーディオの融合というものが理解されるようになってきましたね。
黒崎 そうそう。iPhoneが最初に出たときも、iPodに電話がついた、ってそれどうするの?って思ったみたいにね。それが10年経ったいまや生活の必需品です。山之内さんの記事は、当初からその本質を的確に捉えていたように思っています。DSが発表になって、かなり早い段階でご自宅に導入されたんですよね。
山之内 当時、手元にあるCDがあまりにも増えすぎて収拾がつかなくなってしまって。リッピングしてパソコンにどんどん取り込んで、なんとかスペースを確保したいと考えていたんです。そんなときにDSが出て、リッピングしたCDを聴いてみたら、それまで聴いていたCDプレーヤーと全然違う音がしたんです。その理由について、やはりメカニズムを持っているCDプレーヤーと、ネットワークプレーヤーは本質的な違いがあるんじゃないか、と考えるようになりました。まだハイレゾもほとんど存在しなかった頃で、CDのリッピングデータで聴いていましたね。
■リンのサウンドに驚愕して、オーディオ熱が再燃
編集 黒崎さんはどうしてリンのシステムに出会ったのですか?
黒崎 当初はパソコンに取り込んだ音源を、RMEのDACにつないで再生して、これもなかなかいいじゃないと思っていました。そんなときに、偶然立ち寄った銀座のオーディオショップ、サウンドクリエイトの竹田さんから、パソコンに依存せず、独立してオーディオとして再生できるものがあります、と教えてもらったんです。それが2010年頃の話です。
実は1980年代には、真空管アンプの自作など、かなりオーディオにハマってやり込んでいましたが、CD時代にはいったんお休みをしていたんです。CDは歪もノイズもなくて便利ですごいのですが、逆にまぁまぁの音が簡単に出せるので、オーディオ熱としては冷めてしまったんですね。それから20年ほど空白がありました。ところが2011年にリンのDSに出会ってから、オーディオ熱が再燃して、いまもこうして楽しんでいます。
オーディオって主観的に良い音、好き嫌いというのももちろんありますが、やはり「客観的に良い音」というのもあるように思うようになりました。私はリンの製品についてはいつもそれを感じていて、MAJIK、AKURATE、KLIMAXと価格が上がるごとに、きちんとその価格が音に反映されていると思います。最初にリンのDSを導入したときも、聴き比べの結果これはKLIMAXを買うしかない…!(当時の価格で280万円/税別)となりまして。大変な苦労をして購入したそれをアップグレードしながら使い続けていたわけですが、昨年思い切ってKLIMAX DSM/3を買ってしまいました。
山之内 お値段的にもかなり勇気が必要な製品かと思いますが、決心されたきっかけは何があったのですか?
黒崎 昨年の3月に、深夜にリンのオンライン発表会があって、私はそれをすごく楽しみにしていたんですよ。ワクワクしながら発表を聞いて、でもね、最後に値段を聞いた瞬間(国内価格:4,800,000円/税別)、「あ、これは俺には関係ねーや」って(笑)。
山之内 価格の上がり幅は衝撃的でしたね。
黒崎 関係ねーやとは思ったものの、あくまで参考までにと思ってサウンドクリエイトさんで聴いたらね、やっぱりすごいんですよ。音楽の生命力がすごいというか、さらにスケールが大きくなってダイナミックになって。たとえばビル・エヴァンスだと、一緒に会場の空間にいる感じというか、そういう臨場感と、演奏家の魂が来るように感じたんです。私はSPレコードもたくさんコレクションしているのですが、それに近い、心が伝わってくるような感じがしたのです。
山之内 私も全く同感です。シチュエーションを変えて何度か試聴しましたが、こうも変わるものかなと。演奏の物理的な距離が近くて、空気感も豊かで、心理的な距離も近づいてくる感じがします。
黒崎 音の微細なニュアンスを表現しながら、魂もともにあるというのが非常に難しくて。緻密になればなるほど生命力が下がったり、きれいになってるんだけど分析的になってしまったり。ところがこのKLIMAX DSM/3では、デジタルでここまでエネルギッシュな、生命に満ちた音楽が鳴らせるんだと驚いたんです。
で、その後考えたんです。前回のKLIMAXを手に入れてから、約10年経っているんです。リンのバージョンアップは毎回素晴らしいですが、それでもデジタルで10年持つっていうのはありえない。パソコンもカメラも、そもそも10年も経たずに陳腐化してしまいますよね。SPレコードのような古いものはそれそのものに価値がありますが、デジタルは最新が最高である。といつも考えています。
ただ一方で、罪悪感というか、オーディオはこれでいいのか、という気持ちもありました。音楽を愛するゆえにオーディオを楽しんでいるのに、富裕層の道楽みたいになってしまったんじゃないかって。高くすればするほど高級に見えちゃうでしょ。それはなんだか醜い行為かもしれないって。
山之内 では購入されるまでに、ものすごく悩まれたんですね。
黒崎 そうなんですよ…私には縁遠い世界のように思っていたのですが、これまでリンを大切に使ってきたユーザーには、トレードインのサービスプライスに加えて下取りもしてくれるというお話もあって。それにあと10年使うと考えたら…とか、いろいろ自分に言い訳をして、悩んで悩んで、でも、結局買ってしまいました。
山之内 こうしてご自宅に導入されて、その金額に見合う価値は得られたんじゃないですか?
黒崎 ほんとにね、こう言うとリンを褒め過ぎになっちゃうけど、値段以上っていつも思っています。リンは裏切らないというか、実際に買って、ますます音楽を聴くことが楽しくなっています。