【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第27回
「PlayStation VR2」発売前レビュー。高価だが「これでしか楽しめない」体験がある
「PlayStation VR2」(PS VR2)は、2月22日に発売となる「PlayStation 5」(PS5)向けの周辺機器だ。その実力を発売前に確かめてみたので、レビューをお届けしていこう。
PS VR2はその名の通り、PlayStation向けのVRデバイスとして「2世代目」にあたる。「PlayStation VR」(PS VR1)が出たのが2016年秋なので、実に6年以上の時が経過している。
その間に、ハードウェアはPS4からPS5へ切り替わり、VR機器の開発トレンドも大きく変わった。このタイミングでの投入となったのは、ようやくPS5の供給も安定してきて、周辺機器を含めたビジネスができるようになってきた、という側面もあるだろう。
PS VR1と比較して大きく違うのは、セッティングの容易さだ。PS VR2はたった1本のケーブルを、PS5に接続するだけでいい。別の言い方をすれば、「必要な時だけ出してくる」使い方がしやすい。また、PS VR2が梱包されている箱も、そのまま保存に使えるしっかりしたものだ。
ケーブル1本でOKになったのは、HMD本体にイメージセンサーを搭載して位置を認識する「インサイド・アウト」方式になったからであり、それが可能であるのも、6年の間に大きく技術が進化したからだ。
そうした点から考えるとPS VR2は、スタンドアローン型を中心に進化してきた、昨今のVR用HMDのトレンドにキャッチアップしつつ、PC用VR機器に近い「本体とケーブルで接続して使うことを前提としたHMD」として仕上げたもの、という言い方ができるだろう。
初代PS VRは市場でも初期のHMDであり、色々と課題もあった。特に接続の複雑さと、長く被った時の「締め付け感」はマイナス点だった。PS VR2ではデザイン変更も合わせて、そうした課題をほぼ解決しており、うまくフィットすればかなり軽減される。
ただ筆者の場合は、少しHMDが下に滑りやすくなった印象がある。その分バンドを強く締め付けることになって、このデザイン変更の効果は限定的に思えた。このあたりは、他のHMDが採用し始めている「前後にバランスを分割することで、弱い締め付けで安定しやすくする」アプローチの方がよかったのでは……という気もするし、額に当たるパッドの摩擦をもう少し高いものにする、という解決策もあるように思う。
PS VR2になって一番の変化は、画質と体験だ。本機のディスプレイユニットの解像度は、片目あたり2,000×2,040ドット。昨今のHMDでは平均的なスペックだが、初代のPS VRと比べると、横方向に解像度がほぼ倍になっている。また、パネルリフレッシュレートは90Hzおよび120Hzとなる。
PS VR2が他のHMDと違うのは、HDR表示に対応していることだろう。ダイナミックレンジの幅がどのくらいかは明かされていないが、ゲームにしろ映像にしろ、HDRらしい煌めきが感じられる。VR用HMDでちゃんとHDRに対応しているものは少ないので、これは大きな利点になる。また、視野も約110度と比較的広い。この組み合わせにより、特にゲームに求められる「視野の広さから来る臨場感」を実現しやすい。
さらに視線認識にも対応しており、視野外縁の解像度を下げて計算負荷を最適化する「Foveated Rendering」が利用できる。すべてのゲームが対応しているわけではないようだが、SIEの「Horizon Call of the Mountain」などは、操作と画質向上の両方に視線認識を使って品質を向上させている。
PS5はPS4に比べて性能が高いが、理想的なVRコンテンツを作る場合、性能はいくらあっても足りない状況だ。PS VR2の場合も、片目2,000ドッド×2,000ドット前後を両目分、さらに毎秒90コマ以上を安定的に描画する必要があるので、性能に余裕があるわけではない。
そこで、Foveated Renderingを使うことは1つの差別化要因になる。ゲーム機はPCと違い、性能が1つに定まっていて処理の最適化を進めやすい。Foveated Renderingも最適化手段の1つとして使われていくのだろう。そこまで考えると、PS VR2はとても「ゲーム機の周辺機器」らしいVR機器になっているという見方ができる。
一方で、限界もまた「ゲーム機らしい」ところにある、と筆者は感じた。ゲームにはとても向いているが、映像などには少々自由度が足りない。
PS VR2には、2Dの大型スクリーン映像を楽しむ「シネマティックモード」がある。PS4/PS5の専用タイトルやBlu-rayディスク・映像配信などの2Dの映像は、このモードで利用することになる。
前出のように、PS VR2は片目あたり「2K・120Hz・HDR対応」のディスプレイでもある。HMDとしては高いスペックであり、その分、映画などを大画面で見るのにも向く。純粋な解像感ではもっと良いものはあるが、ちゃんとHDRらしい画質で映像が楽しめるものは、PS VR2くらいしかない。
PS VR2で実現される画面サイズは、かなり感覚的な部分が大きい。筆者には、一番大きな設定にすると「映画館の前から二番目の席」くらいだと感じられるし、一番小さくすると「数m先の40インチテレビ」くらいに感じられる。その間でかなり細かくサイズは変えられるので、好みで選んで大丈夫だと思う。
現状の不満は、このモードから「3D映像が楽しめない」ことだろうか。PS5がBlu-ray 3Dに対応していないので3D映画は見られない。また、YouTubeなどのアプリでも、3D対応のものがまだない。サードパーティーなどからアプリが出てくれば変わってくるとも思うが、1つくらいはローンチに合わせて用意して欲しかったとも思う。
PS VR2に課題があるとすれば「価格」だ。PS5本体のほかに7万4980円かかるのは、ハードルとして低いものではない。ただ、「PS5の性能を活かしたゲーム」を「VRで」楽しめるのは、現状PS VR2しかない。
他のHMDはもっと安価だが、画質・没入感などの質はかなり異なる。ゲーミングPC+他社HMDでもいいが、その場合にはゲーミングPC側が相当に高価になってくる。「お気軽」と言えるプラットフォームではないが「お手軽」ではあり、確実に質も高い。それをどう判断するか、ということになるだろう。
そういう意味では「Horizon Call of the Mountain」や、今回は体験してない「グランツーリスモ7」のVR版など、SIE傘下のスタジオが開発した「PS5独占タイトル」の体験をどう考えるかがポイントだ。そうした「ゲーム体験」のためにいくら支払えると思うかが、買うかどうかの境目になる。だとするならば、独自性の高いタイトルを定期的に出し、店頭などでの体験機会を増やしていくことが、PS VR2にとっては重要なテーマになっていくのかもしれない。
■今のトレンドに合わせて進化したハードウェア
PS VR2はその名の通り、PlayStation向けのVRデバイスとして「2世代目」にあたる。「PlayStation VR」(PS VR1)が出たのが2016年秋なので、実に6年以上の時が経過している。
その間に、ハードウェアはPS4からPS5へ切り替わり、VR機器の開発トレンドも大きく変わった。このタイミングでの投入となったのは、ようやくPS5の供給も安定してきて、周辺機器を含めたビジネスができるようになってきた、という側面もあるだろう。
PS VR1と比較して大きく違うのは、セッティングの容易さだ。PS VR2はたった1本のケーブルを、PS5に接続するだけでいい。別の言い方をすれば、「必要な時だけ出してくる」使い方がしやすい。また、PS VR2が梱包されている箱も、そのまま保存に使えるしっかりしたものだ。
ケーブル1本でOKになったのは、HMD本体にイメージセンサーを搭載して位置を認識する「インサイド・アウト」方式になったからであり、それが可能であるのも、6年の間に大きく技術が進化したからだ。
そうした点から考えるとPS VR2は、スタンドアローン型を中心に進化してきた、昨今のVR用HMDのトレンドにキャッチアップしつつ、PC用VR機器に近い「本体とケーブルで接続して使うことを前提としたHMD」として仕上げたもの、という言い方ができるだろう。
初代PS VRは市場でも初期のHMDであり、色々と課題もあった。特に接続の複雑さと、長く被った時の「締め付け感」はマイナス点だった。PS VR2ではデザイン変更も合わせて、そうした課題をほぼ解決しており、うまくフィットすればかなり軽減される。
ただ筆者の場合は、少しHMDが下に滑りやすくなった印象がある。その分バンドを強く締め付けることになって、このデザイン変更の効果は限定的に思えた。このあたりは、他のHMDが採用し始めている「前後にバランスを分割することで、弱い締め付けで安定しやすくする」アプローチの方がよかったのでは……という気もするし、額に当たるパッドの摩擦をもう少し高いものにする、という解決策もあるように思う。
■HDR世代を意識した画質。ゲーム向けの高い臨場感
PS VR2になって一番の変化は、画質と体験だ。本機のディスプレイユニットの解像度は、片目あたり2,000×2,040ドット。昨今のHMDでは平均的なスペックだが、初代のPS VRと比べると、横方向に解像度がほぼ倍になっている。また、パネルリフレッシュレートは90Hzおよび120Hzとなる。
PS VR2が他のHMDと違うのは、HDR表示に対応していることだろう。ダイナミックレンジの幅がどのくらいかは明かされていないが、ゲームにしろ映像にしろ、HDRらしい煌めきが感じられる。VR用HMDでちゃんとHDRに対応しているものは少ないので、これは大きな利点になる。また、視野も約110度と比較的広い。この組み合わせにより、特にゲームに求められる「視野の広さから来る臨場感」を実現しやすい。
さらに視線認識にも対応しており、視野外縁の解像度を下げて計算負荷を最適化する「Foveated Rendering」が利用できる。すべてのゲームが対応しているわけではないようだが、SIEの「Horizon Call of the Mountain」などは、操作と画質向上の両方に視線認識を使って品質を向上させている。
PS5はPS4に比べて性能が高いが、理想的なVRコンテンツを作る場合、性能はいくらあっても足りない状況だ。PS VR2の場合も、片目2,000ドッド×2,000ドット前後を両目分、さらに毎秒90コマ以上を安定的に描画する必要があるので、性能に余裕があるわけではない。
そこで、Foveated Renderingを使うことは1つの差別化要因になる。ゲーム機はPCと違い、性能が1つに定まっていて処理の最適化を進めやすい。Foveated Renderingも最適化手段の1つとして使われていくのだろう。そこまで考えると、PS VR2はとても「ゲーム機の周辺機器」らしいVR機器になっているという見方ができる。
■シネマティックモードは快適だが「3D映像」への対応が弱い
一方で、限界もまた「ゲーム機らしい」ところにある、と筆者は感じた。ゲームにはとても向いているが、映像などには少々自由度が足りない。
PS VR2には、2Dの大型スクリーン映像を楽しむ「シネマティックモード」がある。PS4/PS5の専用タイトルやBlu-rayディスク・映像配信などの2Dの映像は、このモードで利用することになる。
前出のように、PS VR2は片目あたり「2K・120Hz・HDR対応」のディスプレイでもある。HMDとしては高いスペックであり、その分、映画などを大画面で見るのにも向く。純粋な解像感ではもっと良いものはあるが、ちゃんとHDRらしい画質で映像が楽しめるものは、PS VR2くらいしかない。
PS VR2で実現される画面サイズは、かなり感覚的な部分が大きい。筆者には、一番大きな設定にすると「映画館の前から二番目の席」くらいだと感じられるし、一番小さくすると「数m先の40インチテレビ」くらいに感じられる。その間でかなり細かくサイズは変えられるので、好みで選んで大丈夫だと思う。
現状の不満は、このモードから「3D映像が楽しめない」ことだろうか。PS5がBlu-ray 3Dに対応していないので3D映画は見られない。また、YouTubeなどのアプリでも、3D対応のものがまだない。サードパーティーなどからアプリが出てくれば変わってくるとも思うが、1つくらいはローンチに合わせて用意して欲しかったとも思う。
■高価だが「PS VR2でなければできない体験」の評価が分かれ目
PS VR2に課題があるとすれば「価格」だ。PS5本体のほかに7万4980円かかるのは、ハードルとして低いものではない。ただ、「PS5の性能を活かしたゲーム」を「VRで」楽しめるのは、現状PS VR2しかない。
他のHMDはもっと安価だが、画質・没入感などの質はかなり異なる。ゲーミングPC+他社HMDでもいいが、その場合にはゲーミングPC側が相当に高価になってくる。「お気軽」と言えるプラットフォームではないが「お手軽」ではあり、確実に質も高い。それをどう判断するか、ということになるだろう。
そういう意味では「Horizon Call of the Mountain」や、今回は体験してない「グランツーリスモ7」のVR版など、SIE傘下のスタジオが開発した「PS5独占タイトル」の体験をどう考えるかがポイントだ。そうした「ゲーム体験」のためにいくら支払えると思うかが、買うかどうかの境目になる。だとするならば、独自性の高いタイトルを定期的に出し、店頭などでの体験機会を増やしていくことが、PS VR2にとっては重要なテーマになっていくのかもしれない。