最近の悩みは「サメ映画枯渇問題」
無料“だからこそ”やる!BS12が送るまさかの番組編成、中の人に話を聞いてみた
■2年超のアニメ放送ラインナップにガメラ、襲来! 劇場版『マジンガーZ』放送も大きな反響が
───これまで放送してきて特に反響の大きかったタイトル、シリーズなどがあればお聞かせ下さい。
菊池 GWの特集でも放送したばかりの作品になりますが、 “平成ガメラ3部作” の反響はとても大きかったです。初放送した「日曜アニメ劇場」の枠では、タイトルの通りアニメを主に放送しています。そんななか、普段から番組を楽しんでくださっている「ニチアニファン」の方々にもしっかり届けたいという思いを前提に、アニメファン以外の広い層、ファミリーにも楽しんでいただける作品というのを探していました。
これがなかなか難しいと悩んでいたときに、アニメの実写化作品や、特撮だったら行けるのでは? という話が出て、大野に「平成ガメラどうですか?」と聞いたら「めっちゃいいじゃん!」と二つ返事でOKが出まして(笑)。そこで2年超アニメを放送し続けていた「日曜アニメ劇場」初の実写コンテンツとして放送したのが『ガメラ 大怪獣空中決戦』になります。
当初は「なんでアニメじゃないんですか」的なご意見をいただくこともあるだろう、とは思っていたのですが、そういった反応は殆ど無く、「平成ガメラやるんだ!」というポジティブな意見がかなり多くて驚きました。実写コンテンツを流すのが初めての試みということもあり、月イチで3部作を流すという編成を組んでいたのですが、逆にそれが功を奏して「三ヶ月連続」というイベント感もでました。
“平成ガメラ3部作” の放送の反響があったお陰でアニメ以外の編成内容をというきっかけにもなりましたし、それこそGWも「サメからどうしようか?」となった時に「サメ、ガメラ、良くない?」「だったらゴジラも行けるんじゃない?」という流れになりまして、連休中の特別編成を企画させていただきました。
大野 1作目の公開が今年で28年前になりますが、設定や画作りが見事で、古さを感じない作品なのも “平成ガメラ3部作” の魅力だと思います。いわゆる “傑作” に値する作品なので、次に流す特撮作品……どうしようかというハードルが高くなっちゃいましたね(笑)。
菊池 ちなみにアニメ作品ですと、『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』といった松本零士さん関連作品や、『ルパン三世』は鉄板ですね。あとは、この前放送した『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』も非常に評判が良かったです。
2018年の作品ということもあり、オリジナル版のTVアニメ(1972年放送)から作画のテイストを大きく変えた作品ですが、直撃世代に当たるM3(50歳以上の男性)層がピンポイントで観てくださっているという感じでした。キャストの刷新ですとか “今風” になっているものの、『マジンガーZ』の持つ作品の強さを再度認識する良い機会になりました。
大野 アニメで言うと今敏監督の『パプリカ』も視聴者の方から良い反応をもらえました。放送日にはTwitterにもトレンドインしていましたね。ほぼほぼ地上波でもやりませんし、ファンの方の熱意も高いタイトルであるというのが作用した結果だと思います。『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』の放送も好評の声が多かったです。
面白い作品の提供を前提に、硬軟織り交ぜたラインナップを組んでいますが「何が当たるのか判らない」のも正直あります。そういったなかでも、視聴者の方には「次なにやるんだ?」とワクワクしていただければ嬉しいですよね。
菊池 「ニチアニ」視聴者の方は “解っているファン” が多いように思えますので、編成する際は背筋が伸びますね。下手なことが出来ないです(笑)。
───逆にやりたかったけど実現できなかった企画や、編成などはありますか?
菊池 具体的なタイトルは申し上げられないのですが、80年代アニメの劇場作品の内、一部タイトルについては編成部でも「やりたいね」ということで企画を進行していたのですが、現在の放送基準では表現上難しいと断念したものもあります。先程言った通り該当シーンをカットしてしまうと、作品の流れが悪くなったり、主題が薄れてしまうこともあり、NGという判断をしました。
有料チャンネルであれば観る人が自ら望んで見に行くことができますが、無料の放送局という立場だとコンテンツと「出会ってしまう可能性」も高いです。「アニメがやってる〜」というきっかけで、たまたまチャンネルを合わせたお子様の目に触れることもゼロではないです。そういった配慮の面から選外にということもあります。
■提供したいのは思わぬ “出会い”。決まった時間に流れるテレビだからこその共有体験も
───ご紹介いただいたように、無料の放送局とは思えないバラエティに富んだ放送内容を組んでいるBS12ですが、「好きな時にコンテンツを聴取できるサブスクリプションサービス」が全盛の時代に放送内容に注力する理由をお聞かせ下さい。
菊池 好きなものを今すぐ気軽に観られるサブスクリプションサービスが当たり前になった一方で、「知らない作品にぶつかる機会」や、「忘れていた過去の作品」に巡り合うことが少なくなって来たように思います。それこそサブスクですと、1作品鑑賞したらオススメ作品としてその作品の傾向に近しい物をサジェストされるじゃないですか? 自分の好みに即して勧めてくれるのは助かる一方で、他のジャンルで素晴らしい作品にリーチしづらくなっているのかなって考えますね。
テレビというのはそもそも気追わずに何となく能動的に観るものだと思っていて、そこで意外な気付きや、新しい出会いが生まれることが醍醐味だと思っています。「なんか面白いことやっているな」とか、「次はこれをやってくれるんじゃないか」という期待を持っていただいて、BS12にチャンネルを合わせて「なんか得したな」という気分になってもらえるような編成を心がけています。
単純に良い作品だけを集めているわけではないですが、観てもらった方に「見て良かったな」と思っていただけるような、サブスクでは出会えない「知っているんだけど思いつかなかった」という作品をどんどん入れていきたいと思っています。
───もちろん放送するか否かという前提がありますが、無料の放送波であれば、決まった時間にテレビの前に座っていれば観られるというのもアドバンテージだと思います。
菊池 決まった時間に流れるテレビというコンテンツだからこそ、SNSで共有(実況)するというのはまさに今のテレビの楽しみ方なのかなと思います。同じ時間を共有できるのがいいですよね。先程もお話した通り、この前のGWは、出来るだけリアルタイムで特集放送をSNS片手に観ていました。視聴者の皆さまが作品についての思い思いのことをつぶやいたり、メイキング的なところについて語られたりするのが非常に印象的でした。
───最後に今後放送のタイトルや、特集企画などのアイデアなどがあれば教えてください。
菊池 「サメのような企画」は結構定番になっていて、こういう「括り」的な特集企画をどんどん展開できればと考えています。その一環として、6月9日から11日の3日間に掛けて「西部劇特盛祭り」という特集を放送します! 「土曜洋画劇場」の枠で4月から西部劇をやっていますけれども、そこを掘り下げる形で『小さな巨人』 『100 万ドルの血斗』『ウエスタン』『馬と呼ばれた男』『勇気ある追跡』の5タイトルを連続放送します。
西部劇の魅力って独特の世界観だったり、「男の生きざま」みたいな日本の時代劇にも通づるところがあると思います。時代劇はBS12の人気コンテンツでもありますし、西部劇もそういった見応えのあるコンテンツとして楽しんで貰えれば嬉しいです。
あとは10月や、年末年始の特集企画をそろそろ検討し始める段階です。今は雑談をしているような段階ではありますが、それこそ先ほどお話ししたB級映画特集も本当に形になるかもしれませんし、今回の記事に寄せられた視聴者の声を反映した企画を編成するかもしれません。お楽しみにお待ちいただければと思います!
大野 あと7月の「日曜アニメ劇場」の枠で、『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン等で著名な安彦良和さんが、自ら執筆された漫画作品を監督したアニメ映画『ヴイナス戦記』をBS12初放送します。また、定番タイトルの『ルパン三世』TVSPから『ルパン三世 セブンデイズ ラプソディ』『ルパン三世 霧のエリューシヴ』を放送予定です。
菊池の言っていた年末の企画については、広報宣伝部の一員として観たい映画をリクエストするフェーズですね。私も特撮物が好きなので、平成ガメラのハードルを超える作品を探しつつ、他の路線のものをチョイスしてみるのもありかな、とかは考えています。もちろん「これをやりたい!」というタイトルはありますが、調達できるか否かというところもあるので、めげずにチャレンジしていきたいですね。これからもBS12をよろしくお願いいたします!
───本日はありがとうございました!
「一体どんな人たちが」と、怖いもの見たさ的な導入で始まった本記事であったが、終わってみればどうだろうか。放送という形でコンテンツを送る方々の熱意に触れることが出来た。なかでも菊池さんの語られた「同じ時間を共有できる」というお話は、リアルタイムならではの楽しみを提供する番組編成部員のこだわりが色濃く出たフレーズとして、強く印象に残った。
……という形で綺麗にまとめることも可能だが、やはり担当の方々のこだわりが半端ではない。インタビュー中には「放送したいタイトル」が幾つも飛び交ったが、その具体を文字として起こせないのが非常に勿体ないほどだ。オタク同士の濃い話についていけないという先方の担当者も、記者に「参考程度に観たいタイトルを教えていただけますか?」と、逆インタビューを仕掛けて来た。良いものを届けたいという気持ちに余念がない。
さらに、取材の様子を窺いに来られた広報宣伝部の他スタッフの方も「他局さんと違うことをやってイジられるのが嬉しい局」というように、チーム全体が同じ方向を向いている様に感じた。そして何より、エンターテインメントを愛する方々がコンテンツに真摯に向き合った結果は、番組編成ラインナップに表れている通りだろう。これからもトガった編成を続けるBS12に期待したい。