PR評論家 山之内正がレポート
マランツ、未踏の領域へ。「次元が異なる」弩級フラグシップコンビ「MODEL 10」「SACD 10」レビュー!
マーラーの交響曲第3番(オスモ・ヴァンスカ指揮ミネソタ管弦楽団、BIS SACDハイブリッド)でもオーケストラの立体的な描写力をあらためて実感させられた。最弱音からいきなりフォルティッシモで立ち上がるトゥッティの瞬発力は思わず身構えてしまうほど強靭で、大音量で聴いても打楽器や金管楽器がブレる気配がない。
低音楽器が動かす空気の絶対量が大きく、エアボリュームの大きい試聴室の空気を一気に動かす感触も格別だ。この鳴りっぷりの良さは、駆動力と制動力に余裕のあるモノラルパワーアンプと801 D4の組み合わせで何度か体験したことがあるが、10シリーズのペアが引き出す再生音にもその体験に通じるところがある。MODEL 10には、骨格の安定感など、既存のプリメインアンプでは到達できない領域の表現を引き出す力がそなわっている。
リッキー・リー・ジョーンズ「トラブルマン」は、演出を加えない素直なヴォーカルと緩みがなく芯のあるベースに引き込まれるが、その背後で印象的なフレーズを聴かせるオルガンやギターの鮮度の高いサウンドにも息を呑む。
耳の集中度を高めて聴くと、埋もれがちな小さなビブラートやバックコーラスの表情まで鮮明に聴こえてくるので、聴き慣れた曲から新しい発見が生まれる。リズムを刻むパーカッションも含めて、楽器間のセパレーションの高さは次元が異なる印象を受けた。
MODEL 10を2台使ったバイアンプ駆動も試す。「空間描写に顕著な違い」
MODEL 10を1台追加して801 D4をバイアンプで駆動すると、左右と奥行き方向に音場が1.5倍ほど広がるなど、主に空間描写に顕著な違いを聴き取ることができた。ホール空間がスケールアップするが、目の前に展開するステージの立体的な描写が緩むことはなく、ソロ楽器の音像定位や弦楽器セクションの密度の高い音に変わりはない。
音場が広がると密度が失われるのではと考えがちだが、その心配はいらない。それどころかティンパニや大太鼓の重心が下がり、和音を支える楽器の安定感はバイアンプ駆動の方がより強く実感することができた。
新しい10シリーズはエンジニアやデザイナーが遠慮なくやりたいことを貫いた結果として生まれた希少なモデルだ。コスト度外視と言葉で言うのは簡単だが、その姿勢を保ちながらコンセプトをキープし、実際に製品化にまでこぎ着けるのは容易なことではない。しかも今回のプロジェクトはたんに物量を投じるのではなく、新しい提案を具現化するための理論的裏付けも緻密で、説得力がある。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)