[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第122回】ハイレゾ全曲レビュー:TM NETWORKの名盤「CAROL」の聴きどころ徹底解剖
■1988年の「CAROL」が2014年にもたらした幸運
まずは「CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-」という作品の意義みたいなところを考えてみよう。
この作品の音楽性のみならず音質面においても大きな要素のひとつは、この作品がアナログとデジタルがクロスオーバーするその瞬間に、その瞬間を捉えるにまさにふさわしい彼らによって制作されたことなのではないかというのが、僕の考えだ。
TM NETWORKは当時の最新テクノロジーを駆使して音楽制作に当たっていたという印象がある。しかしこの作品に限って言えば、あえてそれとは異なるアプローチでの制作が行われており、そのことがこの作品に特別な力を与えているとも感じる。またそして、それが今回のハイレゾ化においても大きな力になっている。そのアプローチとはアナログ中心の創作制作環境を選んだことだ。
本作が制作された1988年について考えてみよう。大きいのは録音メディアだ。その後長らくの標準機になるSonyのデジタルマルチトラックテープレコーダーを見ると、「PCM-3324」の運用開始は1982年、本格量産は1984年。単機でのトラック数が24trから48trへと倍増した「PCM-3348」の発売は1989年。1988年は従来のアナログテープレコーダーを中心とした制作環境からデジタルテープレコーダーを中心とした制作環境へのまさに過渡期に当たる。
その過渡期に、本作はアナログテープレコーダーを中心とした録音環境で制作された。「当時の最新」でいくならばデジタルテープレコーダーのはずだ。しかし彼らはアナログを選んだ。